LAST HURRAH


Ryan Adams


  サウス・バイ・サウスウエスト、今年最大の収穫と言えば、ウィスキータウンのライヴを見られたことと実際、ライアン・アダムスと話せたこと、それに尽きる。
  97年、『ストレンジャーズ・アルマナック』でメジャー・デビューを果たしたウィスキータウンは当時、全米で盛り上がっていた「オルタナティヴ・カントリー」なる名称を(半ば強引に)与えられた新世代アメリカン・ロックの旗手として、その未来を大いに嘱望されていた。しかし、ウィスキータウンはメジャー・デビュー直後からメンバー・チェンジをくり返し、酷い時にはアダムスとフィドル奏者ケイトリン・ケリーふたりでツアーを回るなど、常にバンドの状態は不安定で、おまけにサントラ盤やオムニバス盤に発表される数少ない新曲も古い録音ばかりと、ファンの期待を裏切り続けてきた。
  とは言え、「まぁ、そんなところもライアン・アダムスの魅力のうちだろう」と、僕などはついついスポイルしてしまったわけだけれど、そうこうしているうちに所属レーベルの吸収合併騒ぎに巻き込まれ、ジェイムズ・イハも参加したウィスキータウンのメジャー第2弾アルバムはお蔵入り。加えてアダムスがソロ・ツアーを行うなど、ウィスキータウンはどうなってしまうんだろう?と案じていただけにオースチンでアダムスと出会った時は、噂とはずいぶん違う溌剌とした様子に僕は驚きつつも内心、ホッとしていた。
  そしてウィスキータウンの行方について、日本のファンはみんな、やきもきしていると伝えると、アダムスは僕の突然のインタビューの申し出を快諾してくれたのだった。それにしても皮肉っぽい言い回しは、やはり元パンクス。
●ライアンとはジョン・ドォのライヴで、はじめて会ったわけだけど、やっぱ りジョンのファンなんですか?
「ああ。ウィスキータウンが、まだちゃんとしたかたちになる前、ケイトリンとオレは、こんなバンドやろうぜってよく話しあってたんだけど、必ずと言っていいほどXの名前は出てきたよ。Xって曲ごとにジョンとエクシーヌがボーカルをスウィッチしててさ、決まったフロントマンがいなかっただろ。まず、そんなコンセプトと言うか、バンドのかたちに惹かれたんだ。それとパンク・ロックと、いかにも中西部なロック・サウンド、そしてカントリーまでも混ぜこぜにした音楽性だよね」

●ふーん。Xにはかなり影響を受けているんですね。
「オレはXが大好きだった。未だによく聞くよ。彼らはオレがはじめて聞いたゴシック・カントリー・バンドだったんだ。ああ、もちろんハンク・ウィリアムズを除いてだけど」

●ライアンが昔、パンクスだったって話は有名じゃないですか。今でもパンク・ロックって聞いたりするんですか?
「世の中で言われているほど、オレはパンクじゃなかったよ。そりゃブラック・フラッグやマイナー・スレット、その他フライトウィッグやワイパーズみたいにあまり知られていないパンク・バンドなんかもずっと聞き続けているけどさ」

●はじめて聞いたパンク・ロックのレコードって何?
「SSTレコードのサンプラーだったね。それ以来、パンク・ロックって、それを表現するためにはやけく そになることも辞さないものなんだって思ってるよ。まぁ、とにかくパンク・ロックはノース・カロライナの片田舎に住んでいるガキに自分自身を見つけるきっかけを与えてくれたんだ。パンクを知らなかったら全く違う自分になっていたかもしれない」

●ところでウィスキータウンの新作『GO BY BY MUSIC』はどうなっちゃったんですか?
「新作は『PNEUMONIA』って言うんだ」

●アウトポストはリリースするつもりあるんですか?
「いや、新作は違うレーベルから出す。アウトポストは、多くのバンドを路頭に迷わせたインタースコープのくそったれの資本家どものご機嫌とるのに必死で、オレ達のレコードを出すヒマなんてないのさ。インタースコープに走った奴らは全員、オレのケツにキスしやがれって思うね」

●まあまあ。自分達のアルバムがお蔵入りさせられたことについて相当、ムカついているんだ?
「まぁ、最初のうちはね。でも、そうこうしているうちにオレはブラッドショットからソロ・アルバムを出すことにしたからさ。9月にリリースされる予定なんだ」

●ああ、ソロでも活動していくんだ?
「もちろん。ああ、もちろんさ」
●ところで新作『PNEUMONIA』はどんな感じなんですか?
「『PNEUMONIA』は『ストレンジャーズ・アルマナック』より、アルバムとしても音楽的にもまとまっているよ。よりオレ達らしいものになっていると思う。『ストレンジャーズ・アルマナック』が全く好きじゃないとは言わないけど、オレ達、前作の騒ぎにちょっと疲れてた気がするんだ。あの時、オレ達全員、どこ かイカれてて、ねじくれてて、おまけにオレはずいぶん傷ついていたんだ」

●なぜ、しょっちゅうメンバーを変えるんですか?
「世の中の常識ってやつに反抗しているのさ(笑)。ウィスキータウンにはケイトリンとオレ以外、決まったメンバーはいない。だから、その時々で出ていく奴もいれば、入ってくる奴もいる。まぁ、ケイトリンにクビされりゃ出ていくしかないけど(笑)。みんな、オレがクビにしているように言っているけど、本当はケイトリンがオレにクビにさせるんだ(笑)。あるいはオレや長いツアー、まあ、なんでもいんだけど、とにかくみんな、このバンドにいることにうんざりして出ていくんだと思うよ。ああ、そうだ。何よりも過酷なスケジュールが原因で、オレ達はずいぶんメンバーを失ってきたよ」

●現在のラインナップを教えて下さい。
「それには答えられないよ。だって今、メンバーはいないんだからさ」

●ニーコ・ケイスの新作で彼女と一緒に曲を書いているけど、アーティストとして彼女のことはどんなふうに見ているんですか?
「大好きだよ。彼女の歩いたところをキスしたっていいぐらいさ。ニーコは4万発の美しい弾丸でオレの魂を撃ち抜いたカントリー・ロックのショットガンなのさ」

●聞いているこっちが照れくさいって。それで今後の予定は?
「今夜、オレはバーで酔いつぶれて、それから薬を飲んですっきりするのさ。そして明日、目を覚ますと外出する計画を立てて、同じことをまたくり返す。だって人生なんて習慣だろ」
●じゃあ、最後の質問です。今年のサウス・バイ・サウスウエストでは誰が印象に残っていますか?
「ヴァン・シェルトン。ああ、そうだ。ヴァン・シェルトンだ」

●誰、ヴァン・シェルトンって? どこで演奏したっけ?
「いや、オレ達のツアマネさ。彼はとてもいい仕事をしてくれたんだよ(笑)」


(インタビュー : 山口智男)

<< ISSUE 001 CONTENTS
TOP | BACK ISSUES | INFO | LINKS


inserted by FC2 system