LAST HURRAH


CHUCK PROPHET


    自分の原点は70年代だと言うチャック・プロフィット。そんな彼の本棚の片隅には、ボロボロになったビル・オーウェンズの写真集、『サバービア』が置かれている。人々が郊外へ移り住み、車のAMラジオからロックンロールが流れ、誰もがギ ターを手にしていた、そんな時代が彼のいう原点としての70年代なのだろう。
    自分のルーツをしっかりと見つめながらも、「あの時代はあの時代」とさらりと言いのけ、懐古的になるでもなく、その視線は常に正面を向き、時代と共に呼吸をし、今を生きている。10月に国内盤がリリースされた『ザ・ハーティング・ビジネス』は、シンプルなロックンロールに R&Bと70年代のスピリットを継承し、現代に再構築させた現在進行形のアメリカン・ロックともいうべき快作だ。
    ソロデビューから早くも10年。ミュージシャンという名の職業は、自分で選ぶのではなく周りが判断するものなのだと言っていた彼。それならば、間違い無く彼は、最高に格好良いミュージシャンの一人だと断言できる。なんて、そんなことを言ったら、彼はきっと笑い飛ばすに違いないだろうけれど。


LAST HURRAH : 新作『The Hurting Business』ではスクラッチやサンプルをふんだんに使ったり、今までとはちょっと違うボーカルスタイルをとったりと新しいことをたくさんやっていますけど、何か特別なテーマみたいなものはあったんですか?

CHUCK PROPHET : 「いや、単に自分を楽しませようとしてただけ。でも思ってたより内省的にならなかったんで、ホッとしてる。その前(『Homemade Blood』)が芝居みたいなアルバムだったからさ。その反動でこうなったんだ」

LH : 芝居みたいっていうのは?

CP : 「たとえば5人の人間が舞台に立って同時にプレイしてる、みたいなね。まぁそれだってもともとは、そのもう一つ前のアルバム(『Feast of Hearts』)でスタジオワークに時間を費やしすぎた事からきてるんだけど。とにかく前作の反動がこういう形で出てきたんだ。初めて聴いた曲を、ばさっと切り開いて内側までを掘り下げていく。で、またそれを一つにつないでいくっていう。メンバーが集まって曲を初めて演奏する時の自然発火を求めてたんだよね。ブレイクビーツに4トラックにコードや言葉、ちょっとしたメロディをのせて、それを友達とのコラボレーションを通しながら一緒に作り上げるんだ。それだけ。で、出来あがったのがあのアルバム」

LH : 友達って例えば?

CP : 「友達っていうか、共犯者っていうか(笑)。ほんと数人なんだけど、たとえばクリップシュッツ。本名はカート・リップシュッツっていって、気難しいけどすごく才能のある奴だよ」

LH : ソウル・ミュージックが新作のキーワードかな、とも思ったのですが、そんなに意識していたわけでもなさそうですね。

CP : 「そうだね。自分でも意識していない水面下にあったものが、ドラムやギター、オルガン、その他にも曲が欲しがってるなと思ったもの全てを通してどかーんと出てきたんだ。あとはレコーディングの日にたまたま立ち寄った奴によって違ってきたりとか。でも今までもずっと60年代のソウル・ミュージックにどっぷり浸かってきたし、何をしても結局ここへ戻ってきちゃうんだ。アメリカの音楽で、間違いなく俺の一番好きな時代だよ」

LH : 新作を聴いていて、ベックやジョン・スペンサーが浮かんできたのですが、実際彼らのレコードを聴いたりしますか?

CP : 「もちろん。あいつらはすごく良いアルバムを作ってると思うよ」

LH : 他にはどんなものを聴いているんですか?

CP : 「ここ数年はいろんな類のミックステープに凝ってるんだ。ローマノウスキに始まってエディ・デフからヘンプ・ローズ、不幸にも忘れ去られていった偉人達を90分間流し続けるんだ。エディ・デフって人は信じられないようなボヘミアン・ラプソディのリミックスを作ったんだぜ。聴いたらびっくりすると思うよ。それからチャールズ・ライト、チャーリー&アイネッツ・フォックス、ジェイムス・ブラウン、カット・ケミスト&DJシャドウのジャスティス・リーグでのライブとか、ありとあらゆるジャンクを詰め込んでさ。こういうミックス・テープってさ、ナゲッツシリーズの遠い親戚みたいだよね。もっとも、ソウル畑から集めてきたってことと、60年代のパンク、ガレージ・ロック、その他諸々に相反してるって違いはあるけれど。カセットレーベルには「ホワイト盤・無名アーティスト」って書いてあるかもしれない。でもひょっとしたらその中からジャクソン・ファイブがめちゃめちゃハイになってデトロイトのクローゼットの中でジャムしてるような音楽が飛び出してくるかもしれないんだぜ。とんでもない代物だよ!」

LH : でも、そうやって古い音楽を聞く一方、常に新しい音にも興味を持っていますよね? 積極的に新しいものを取り入れているし。年齢に反比例してというか(笑)、アルバムのリリースを重ねるごとにどんどん音が若返っている印象を受けるのですが?

CP : 「それについてはね、最近自分でも考えてたんだけど、やっぱりヒップ・ホップの影響がすごく大きくてさ、ひらめきを与えてくれるし、物事を裏返しにする事だってできる。全てを新鮮にしてくれるんだよ。もちろん古いレコードだって大好きだし、いつだってそういう根っこの部分に引き寄せられてきた。多分ね、若い頃の方がソングライターとしての自分を真剣に受け止めて欲しいと思ってただろうね。でも時間が経つにつれ、同時代のシンプルなアーティスト達を評価するようになってきた。俺のソング・ヒーロー達はダン・ペン&スプーナー・オールダム、ジャック・クレメントにスモーキー・ロビンソン、それから・・・言わなくても分かるだろ? いろいろ聞いていても、いつもこういう音楽に帰ってくるんだ」

LH : それじゃあなたにとって流行ってどういう意味がありますか?

CP : 「流行? そんなもの今の時代存在しないんじゃないの? パンクが登場した時、誰も彼もが古いレコードを投げ捨てたじゃん。今そういう事ができる何かがでてきたとしたら、驚き以外の何者でもないね」

LH : ハイトーンからのリリースはどうやって決まったのですか?

CP : 「アメリカでレコードをリリースしてくれるレーベルを探している時、ハイトーンが真っ先に手を挙げてくれたってだけの事。ラリー・スローヴィンっていうハイトーンのオーナーがある日曜の午後に電話してきてくれてさ。新しいレコードを聴いてめちゃくちゃ興奮してて、こっちまですごく嬉しくなっちゃったよ。ハイトーンと契約できて良かったと思ってる」

LH : あなたの音楽は実際アメリカよりもヨーロッパで支持されていると思うのですが 、例えばツアーを廻ったりとか、ヨーロッパでできることをアメリカでもできたらな、と思うことはありますか?

CP : 「何? ヨ ーロッパ対アメリカ(笑)? 俺はただ自分のやる事をやってるだけだよ。何をやってるかなんて分からないけどさ。だって誰が自分のやってる事に応えてくれるかなんて自分で選べる事じゃないだろ? 不思議な事に今年はアメリカでもライブを数多くこなしてるんだよ。過去数年間のライブ日数を足した数よりも多いくらい。そりゃもうやりがいがあるなんて言葉じゃ足りないくらいすごい 楽しいよ」

LH : オルタナ・カントリー・ムーブメントって本当にある、もしくはあったのでしょうか?

CP : 「トラディショナルな音や形、世界観っていうのはこれからもずっとあり続けると思うんだ。それに新しい切り口っていうのも必ずあると思う。もしかしたら皆スティール・ギターやフィドルに嫌気がさして、またムーグが聞きたいと思うかもしれない。だからといって、今そういうシンセの音が聞きたいって思った人達が二度とカントリーに戻ってこないって言う訳じゃないだろ。俺自身、カントリー が好きなんだってことを改めて再発見する事がしょっちゅうあるよ。ジェニー・C・ライリーの"ハーパー・バレーPTA"みたいなソング・サイクル・アルバムとか作ってみたいって思うし。アップデートするには十分の素材が転がってると思わない? 60年代と比べたらハーパー・バレーにもいろんな事が起こってるはずなんだから!名声不朽のジム・トンプソンの言葉を借りれば、ストーリーを書くには無数の方法があるけれど、プロットはただ一つ。物事をうわべで判断しちゃいけないってこと。それとかさ、フィオナ・アップルの CD か DVD にダウンロードできるショート・フィルムをボーナストラックでつけて売るってのはどう? もちろん監督はフィオナのボーイフレンド! どっかに売り込んでみたら? でも儲かっ たらちゃんと俺にもギャラを半分くれなきゃだめだよ(笑)」

LH : ところでソロとゴー・ゴー・マーケットの違いって? ゴー・ゴーズもライブを頻繁に行っていますよね?

CP : 「第一に、俺はステファニーほど上手く歌えないってこと。ステファニーなら大の男をほろりとさせることだってできるんだぜ。俺が求められてるのはギターだけ。第二に、ターンテーブルを2台使ってるってこと。もっと言ってみればこれは俺達の思い描くブリル・ビルディング・ファンタジーってとこだね。ストリングスやホーンの代わりに2台のターンテーブルを使って、60年代のディープなサザ ン・テイストでブリル・ビルディングのソングライティングを再構築させるんだ」

LH : 最近のサンフランシスコの音楽シーンはどんな感じですか?

CP : 「シーンねぇ。シーンっていうよりゲットーとでも呼びたいよ。こんなとこ越してこない方が良いよって友達にも言っときな。シスコは変わったよってね。非主流派分子にとっちゃどんどん住みにくくなってきてるよ。俺はさ、自分はフリークなんだって大手を振るためにここへ来たんだよ。シスコはいつだってリベラルな街だったし、オルタナティブっていう言葉が出てくる前に既にそういうものを サポートしてたんだ」

LH : いわゆる世間のはみ出しものにとっては居心地が良かったと。

CP : 「そうそう。あ、いや、今のちょっと訂正。オルタナティブって言葉が台頭する前はカウンター・カルチャーって呼ばれてたんだっけ。まぁそれはどうでも良いんだけど。俺、いつも言うんだけどさ、南カリフォルニアでジェリー・ガルシアが指示されたと思う? まさか。あっちじゃ革のパンツをはいたジム・モリソンがセックス・ゴッドだったんだ。変人だからって白い目で見ちゃダメだぜ。支援し ていかなきゃ。だってさ、俺達そのうち20代そこらのEトレーダー達から自分達の身を守らなきゃならなくなるんだろうからさ。あいつら何年かしたらきっと俺達を街から追い出しにかかるだろうよ。ツーソンが次のボヘミアン・タウンになれると思うかい? ルイスヴィル? それとも東京? いや、それはあり得ないだろうね」

LH : 70年代に特別な感情を持っていますか?郊外での生活とかその時代に生まれた音楽とか。

CP : 「あぁ、もちろん。俺の原点だよ」


(PHOTO : SAKI HONMA)



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