CARY BROTHERS interview

JUST WANNA SING A SONG WITH YOU
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 できるだけインディペンデントでいるべきだ。
 なぜなら、今、メジャー・レーベルはビビっているからね


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大学卒業後、何年か映画業界で働いたのち、新しいシンガー・ソングライターの発信地として知られるようになったロサンゼルスのホテル・カフェで歌いはじめたキャリー・ブラザーズ。

その彼がシンガー・ソングライターとして注目されるようになったきっかけが1本の映画だったというところがおもしろい。

彼は大学時代の友人、ザック・ブラフが脚本を書き、自ら監督と主演を務めた映画『終わりで始まりの4日間(『GARDEN STATE』)』(ナタリー・ポートマン他が出演)のサントラの選曲を、ブラフとともに手がけ、自らも自作の「ブルー・アイズ」を提供した。そのサントラはアメリカで大ヒットを記録したうえにグラミーまで受賞。そして、ブラザーズはたちまち注目の存在に。「ブルー・アイズ」がiTunesで5万ダウンロードを超える頃には、メジャー・レーベルが彼を巡って争奪戦をくり広げていたそうだ。

それが04年のことだった。

しかし、ブラザーズはメジャー・レーベルからの誘いを断ると、その信念の下、今日までマイペースの活動を続けてきた。

『フー・ユー・アー』はその彼が07年5月、自らのレーベルからついにリリースした1stアルバム。出世作となった「ブルー・アイズ」他、ゆったりした時間の流れの中で“君”への想いを甘い感傷と悔恨とともに歌った全13曲が収録され、そのどれもが80年代のUKロック風のサウンドに包まれているところが興味深い。

テネシー州ナッシュヴィルで生まれ、子供の頃はエルヴィス・プレスリーがアイドルだったというブラザーズに話を聞いてみた。



●映画『終わりで始まりの4日間』に提供した「ブルー・アイズ」が注目され、シンガー・ソングライターとしてキャリアが一気に開けましたね。

「ロサンゼルスのホテル・カフェというクラブで2、3年ずっとライヴをやってきて、地元では、ある程度ファンもついてきてくれたんだけど、映画のお蔭でもっと大きな、世界規模の注目を集めることになった。全く意外なことだったよ。とても小規模な映画だったし、誰も成功するとは思っていなかったんだ。特にサントラはね(笑)。
サントラに曲を提供したアーティストの一人になれて幸運だと思っているし、監督のザック・ブラフには「ブルー・アイズ」を選んだくれたことをこれからもずっと感謝するよ」

●80年代のUKロックに影響を受けたそうですね。それはアルバムにも現れていると思うのですが、80年代のUKロックのどんなところに魅力を感じたのですか?

「僕はナッシュヴィルで、80年代の無難で素朴なカントリー・ミュージックに囲まれて育ったんだ。当時のナッシュヴィルの音楽はできるだけ多くのリスナーにアピールできるように書かれた、いわゆる売れ線のものばかりで、僕の中の反抗的な部分はそれが大嫌いだったんだ。
それに比べると、大西洋を越えてやってくるバンドはとても謎めいていた。その神秘性が僕のように保守的な街で暮らしている子供にとっては魅力的だったんだ。80年代のUKのバンド、たとえばU2、ザ・キュアー…特に『ディスインテグレーション』が素晴らしかった。それにストーン・ローゼズらが壮大な音楽を奏でていることに大きな喜びを感じたよ。メロディアスで、リヴァーヴがかかったスペーシーなギター・サウンドは、未来の音楽を聴いているという気にさせてくれたんだ」」

●80年代のUKロックと言えば、アルバムではトンプソン・ツインズの「イフ・ユー・ワー・ヒア」をカヴァーしていますね?

「トンプソン・ツインズのことを考えると、自分の純粋だった子供の頃を思い出して、いつもニヤニヤしてしまうんだ。ジョン・ヒューズ監督の『すてきな片想い』って映画のサントラに入ってて、特に好きな曲なんだよね。プログラムされたエレクトロニックな曲を、アコースティック・ギターとバンドでオーガニックに演奏するっていうアイディアがおもしろいと思ったんだ。カヴァーする曲を自分のものにしないと、カヴァーする意味はないからね。この曲はトンプソン・ツインズの曲の中では決してヒットしたわけではないけど、アメリカでは80年代に育ったある世代には、この曲を映画で覚えている人がいて、この曲をライヴでやるときのお客さんの反応をみるのが楽しいんだよ。長い間、会っていなかった古い友達に再会したような反応をね」

●『フー・ユー・アー』を作るにあたっては、どんな作品にしようと考えたんでしょうか?

「僕の音楽の聴き方は、個々の楽曲を聴くというより、アルバム全体をひとつの長い体験として聴く、というものなんだ。だから、始めから終わりまで意味があって、簡単にひとつのジャンルに括れないアルバムを作りたかった。夜にアルバムをリピートでくり返しかけて、それを聴きながら朝を迎えるイメージとでも言えばいいかな。
だから、アルバムは速めのテンポの曲で始まって、終わりに向かってスローになっていくんだ。夜が深まるにつれてね。ポップな曲もあるし、ピアノ・バラードやフォーキーな曲、それにシューゲイザー的な曲もあって、それらがサウンド・プロダクションと僕の声でひとつにまとまっている。初期衝動で、ただ速いだけのロック・アルバムを作るっていう段階は過ぎたんだよ。
僕の人生の、この時点でロック的なアブないものを作ろうとしたら、それは自分に嘘をつくことになる。僕の興味は、多くの人が共感できるような人間関係を歌った、力強くて、勢いがあって、感情表現豊かなアルバムを作りたいということだけにあった。
曲を聴いていくに従い、賭け金が上がるように緊張感が高まり、ラストでは賭けに勝って賞金を手にするように聴き手には感情的に反応してほしい…曲が終わる前の音楽の至福の瞬間でね。少なくとも、そういうことが起こったらいいなと思っているよ。
それぞれの曲は、3人の役者がいてクライマックスがある、ちょっとした芝居のようなものと考えてて、だから、いわゆるソングライティングと言うよりもストーリーテリングのように捉えているんだ」

●複数のメジャー・レーベルから誘われたにもかかわらず、自主リリースを貫いている理由は?

「長い間、自分の音楽を世に出そうと一生懸命やってきて、多額のお金のためにクリエイティヴな自由を犠牲にすることに耐えられなかったんだ。金持ちになる必要はないし、ある程度快適に暮らせればいいし、もう十分に稼いだしね(笑)。メジャー・レーベルはアーティストをコントロールしたがるものだ。それについてはどうしようもない。周りの友人がそうなるのをずいぶん目にしてきたよ。もちろん、成功した友人もいたけど、ほとんどはそうじゃなかった。今はインターネットとオンライン販売が確立されている。誰でも自宅でレーベルを運営できるし、ほとんどコストがかからず、世界中にアルバムを流通できる。若いアーティストにはできるだけインディペンデントでいることを薦めるよ。今、メジャー・レーベルはビビっているからね。それに、自分のアルバムを売る人に何かを恐れてほしくはないんだ。僕自身は怖いもの知らずだよ。古いやり方で誰かにコントロールされるよりは、新しいテクノロジーと考え方でリスクを冒して大成功するか、大失敗するかどちらかのほうがいいと思っているんだ」 」


(インタビュー◎山口智男)




『WHO YOU ARE』
CARY BROTHERS
(SIDEOUT)




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