すでにアメリカでは多くのリスナーが注目しはじめているシンガー・ソングライター、ロッキー・ボトラトがついに日本デビューを飾る。
99年発表の『ROCKY VOTOLATO』以来、これまでに計5枚のソロ・アルバムをリリースしているボトラトは元はと言えば、シアトルのエモーショナル・ハードコア・バンド、ワックスウィングのフロントマンだった。 そもそもバンドの片手間にソロ活動を始めたとき、ボトラトの意識の中にはテキサスの片田舎で育った自分の原点に今一度戻って、記憶の中にある原風景を、弾き語りに近いアコースティック・サウンドで描き出したい、という思いがあったにちがいない。 そして、バンドは05年に解散。ボトラトはソロ・アーティストとして新たなキャリアを歩きはじめた。 今回、日本盤がリリースされる『ブラグ・アンド・カス』はアメリカでスマッシュ・ヒットになった06年発表の『MAKERS』に続く5枚目のソロ・アルバム。 シンプルなフォーク作品だった前作とは打って変わって、今回はプロデューサーも務めたケイシー・フォーバート(ペドロ・ザ・ライオン他)、ジェームス・マクアリスター(スフィアン・スティーヴンス他)、ビル・ハーゾグ(ジェシー・サイクス&・ザ・スウィート・ヒアアフター)、リック・ステフ(キャット・パワー、ルセロ他)ら、インディー・シーンきってのミュージシャン達とレコーディングを行い、ソウル・ミュージックからの影響やポップ風味を演奏に滲ませることで、単に原点回帰やルーツ探究に止まらない閃きをアピールしている。 枯れた味わいはあいかわらずではあるけれど、ある意味、ポップになったとも言える『ブラグ・アンド・カス』によって、ボトラトの注目度はさらにアップするはずだ。 ●テキサス州ダラス郊外のフロストという小さな街にある牧場で育ったそうですね。その頃のことって何か覚えていますか? 「僕はダラスで生まれたんだけど、その後、フロストに移ったんだ。ああ、もちろん、その頃のことは、はっきりと覚えているよ。その頃のことは、現在の僕のみならず、現在、僕が作っている音楽にも大きなインパクトを与えているんだ」 ●バイオグラフィーによると、子供の頃はジョニー・キャッシュ、ウィリー・ネルソン、スティーヴ・アール、レイナード・スキナードなどを聴いていたそうですね。それはご両親の好みだったんですか? 「そうだね。他にも両親はボブ・ディランやキャット・スティーヴンスといった60年代や70年代の素晴らしいシンガー・ソングライターも聴いていたよ。さっきも言ったように、その頃の生活が今日の僕を作ったんだ。カントリー・ミュージックは、その頃の僕の生活の完璧なサウンドトラックだったんだ。ただ、そういう素晴らしい音楽を、すでに子供の頃に聴いていたってことを思い出すまでには、ずいぶん時間がかかっちゃったけどね」 ●その後、シアトルに移り、高校時代にパンクやインディ・ロックを聴きはじめたそうですが、パンクを知ったきっかけは? 「両親の離婚、母の再婚、そしてシアトル移住……僕はすっかり混乱してしまい、自分の過去から逃げ出したいと思ったんだ。パンク・ロックはその手助けをしてくれたんだよ」 ●どんなバンドを聴いていたんですか? 「マイナー・スレット、ミスフィッツ、エンジン・キッド。それらと同じぐらい、ジョーブレイカー、ドライヴ・ライク・ジェフー、フガジといったバンドを聴いたよ」 ●3枚のアルバムを発表後、解散したワックスウィング時代のことをふり返って、どんなことを思いますか? 「僕の人生におけるとても大切な思い出として、ワックスウィングのことは、これからもずっと記憶しつづけるだろうね。ワックスウィング時代のことは、何一つ後悔してないよ。その経験から僕は多くのことを学び、自分らしいスタイルや自分自身が心地いいと思える音楽を見つけることができたんだからね。ワックスウィングとして演奏することは二度とないかもしれないけど、今、自分がやっていることは決してまちがってないと思うよ」 ●なぜ、ワックスウィングは解散してしまったんですか? 「なるべくして、そうなったと言うか、まず第一に僕自身がワックスウィングとは全然違うことをやりたいと思ったからなんだ。もちろん、それができるという自信もあったよ。それにちょうど(ワックスウィングのギタリストだった)弟のコディも掛け持ちでやっていたブラッド・ブラザーズが成功しはじめていたんだ。それも解散を決意させた理由の一つだったかもしれないな」 ●ワックスウィング活動中にソロ・アルバムを発表しましたね? 「ああ、常にバンドではできないような曲も書きつづけていたからね。そういう曲が十分にたまったんで、ソロ・アルバムをリリースしようと思ったんだ」 ●前作『MAKERS』収録の「WHITE DAISY PASSING」がテレビドラマの『The O.C.』に使われたそうですね。 「番組の音楽監督がその曲を気に入ってくれてね。レーベルに曲を使いたいと言ってきたんだ。お蔭で、僕と僕のレコードに多く人の注目が集まるようになった。とても感謝しているよ」 ●99年に1stソロ・アルバムをリリースして以来、コンスタントにアルバムを発表していますね。それはそれだけたくさんの曲を作ることができるからだと思うのですが、あなたの曲作りの秘訣は? 「曲作りは大いなるミステリーさ。たぶん、これまで僕が経験してきたさまざまな苦難や混乱が僕に曲を書かせるんだと思う」 ●曲作りで一番苦労するのは、どんなところですか? 「かつて、ボブ・ディランはこんなふうに言ってたよ。世の中には本当にたくさんの曲があるけど、心底、言いたいことがあるとき以外、曲を書くべきではないって。だから、僕は辛抱強く、いい曲が頭に浮かぶのを待っているんだ。曲作りで一番難しいのは、それだね」 ●『ブラグ・アンド・カス』を作るにあたっては、どんな作品にしたいと考えていたんですか? 「いつもどおり、時間とともに色褪せてしまわない普遍性を湛えた曲を作ることに挑戦しただけさ。僕や、僕の曲を聴きたいと思っている人達の心に残るようなね」 ●参加ミュージシャンは、どんなふうに集めたんですか? 「全員、ミュージシャンとして信頼できる、いい友達なんだ。ツアーや、他の、いろいろなバンドと対バンしているうちに知りあったんだ。ただ、レコーディングの1週間前に声をかけたから、ある意味、きわどいタイミングではあったんだけどね」 ●新作のレコーディングでは参加ミュージシャンとの間にケミストリーが生まれたと思うのですが、また、バンドをやりたいとは思いませんか? 「もちろん! 今、バック・バンドを務めてくれている連中を見つけて以来、ずっとそう思っているよ。彼らとレコーディングするのが待ち遠しいんだ。たぶん、それはすごくいい形で、僕の曲に影響を与えるだろうね。スタジオに戻るのが待ちきれないよ」 ●『ブラグ・アンド・カス』というタイトルにはどういう意味がこめられているのですか? 「“...the brag & cuss, promising the fall”っていう一文からタイトルを取ったんだ。トラブルに直面したときにこそ、自分のエゴを打ち負かさなきゃならないっていう意味なんだ」 ●最後に日本のリスナーにメッセージをお願いします。 「みんながバッドニュースから8月に出る僕のレコードを気に入ってくれるといいな。それで、日本に行って、みんなの前で演奏できたら、もう言うことはないね。それが近い将来、実現することを願っているよ」 (インタビュー◎山口智男) |
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