BLANCHE INTERVIEW

Do you love me? Yes,I love you...And you trust me? I'm not sure...

Blanche

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アルバム・タイトルは避けられない運命と恐れの象徴だ

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 デイトロイトの5人組BLANCHEは、現ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトとかつてバンドをやっていたダン・ジョン・ミラー(VO&G)が妻トレイシー・メイ・ミラー(B&VO)と新たに始めたバンドだ。

 04年、BLANCHEがひっそりとリリースしたデビュー・アルバム『イフ・ウィー・キャント・トラスト・ザ・ドクターズ』はじわじわと注目を集め、彼らはにわかに話題の存在に(その証拠にV2レコードが慌てて彼らのデビュー・アルバムを再リリース。お蔭で日本盤も出た)。

 ゴシック風味のカントリー・ロックはもちろん、ガン・クラブの曲をカヴァーしたり、ダンとトレイシーがクランプスのラックスとポイズン・アイヴィーのカップルを彷彿させたりと、個人的には何かとツボにハマる要素が多いバンドではあるのだけれど、今年3月、SXSWで見たライヴが最高だった。

 薄気味悪さと滑稽さが入り混じるちょっと芝居がかったパフォーマンスは、まるで『アダムス・ファミリー』か『幽霊城のドボチョン一家』(!?)。その音楽が醸し出すムードはもちろんだけれど、それだけに止まらず、彼らは衣装、立ち振る舞いや表情などでも、唯一無二のBLANCHE・ワールドを作り上げていた。

 今回、話を聞くことができたバンドのリーダー、ダンの言葉を信じるならば、このBLANCHEはアマチュアの集まりということになる。しかし、彼らにはどんなバンドにも負けない明確なビジョンがある。そういう意味では、彼らはまさしくプロフェッショナルなのだと思う。



●まず、あなたが以前、ホワイト・ストライプスのジャック・ホワイトとやっていた2つのバンド、グーバー&ザ・ピーズとトゥー・スター・タバーナクルについて教えてもらえますか? デイヴ・グッドマンは彼の著書『モダン・トゥワング』でグーバー&ザ・ピーズをサイコカントリーと表現していました。僕はグーバー&ザ・ピーズを聴いたことがないので、その表現が正しいかどうか分かりません。実際、グーバー&ザ・ピーズは、どんなバンドだったんでしょうか?

「グーバー&ザ・ピーズについて確実に言えることが2つある。まず、音楽的に僕達は僕達が大好きだった古いカントリー・ミュージックと僕達が影響を受けたインディー・パンクを、あくまでも自然なかたちで混ぜ合わせようとしていたことだ。だからこそ、僕達の音楽はあらゆるスタイルを網羅していた。……なるほど、サイコカントリーね。僕には正しい表現に思えるよ。

 そして、2つ目は僕達がバンドを始めたとき、ハンク・ウィリアムズ&ザ・ドリフティング・カウボーイズがいかにかっこいい存在だったかについて話し合い、もし僕達がぱりっとしたヌーディー・スーツで着飾ったとしたら、デトロイトのコワモテの連中への最大の威嚇になると考えていたということだ。ライヴを始めた最初の1年間、僕達は観客に僕達が何かの間違いでワイオミングからデトロイトにやって来て、見当違いの修行を受けさせられていると思わせることに成功した(笑)。ライヴの1曲目は常にゆったりしたカントリー・ソングだったんだけど、観客がうんざりするのを見るのは楽しかったね(笑)。だけど、2曲目以降はパンキッシュな曲が炸裂する。その興奮は、まるで覚醒剤でもやっているみたいだった。気が触れたように踊って、客席に向かって藁の束を蹴っとばす。それは正気の沙汰とは思えなかったよ。

 トゥー・スター・タバーナクルはそれよりももっと洗練された、もうちょっと真面目なバンドだった。ジャック(・ホワイト)が作ったパンク風の曲に僕がカントリーの影響を加えた、ちょっと風変わりな組み合わせの曲をやっていたんだ。それらの多くはホワイト・ストライプスの『ホワイト・ブラッド・セルズ』に収録され、僕が作った何曲かはBLANCHEのアルバムでもやっているんだ」

●ジャックはグーバー&ザ・ピーズではドラマーだったそうですね。

「彼は15代目にして、最後のドラマーだった。僕らは多分150回ぐらいドラマーのオーディションをやったはずなんだけど、熱意という点では彼が一番だった。確かにテクニックという意味ではベストとは言えなかったけれど、彼ほど音楽に夢中になっている奴はいなかった。それにいいセンスを持っていたね」

●その後、BLANCHEはどんなふうに始まったんですか?

「多くのブルーグラス・フェスティバルに行ったあと、トレイシーと僕はバンドの多くが家族、あるいはごく親しい友人達の集まりだということに気づいたんだ。BLANCHEを結成したとき、僕達はその頃話題になっていた、いわゆるデトロイト・シーンってやつにうんざりしていた。誰もがあらゆる面でストゥージズになろうとしているようにしか思えなかったんだ。ストゥージズ・ワナビー達と正反対のことをやることが僕にとって意味あることだった。それにデトロイト・シーンには仲良しグループを作りたがるような連中しかいなかったしね。高校生じゃないんだからさって呆れちゃったよ。

 BLANCHEは……古いカントリーとブルースが大好きなんだけど、それとはちょっと違う音楽をやりたがっている親しい友人達と始めたバンドなんだ。僕達は家族のようになりたかった。それで、友達を集めて、バンド初心者のようなやり方でBLANCHEを始めた。でも、それこそが、いわゆるガレージ・バンドの本当の在り方だろ? 楽器ができない人達の中にも稀に素晴らしいセンスの持ち主はいる。あのヴェルヴェット・アンダーグラウンドがそうだったようにね。

 僕らは音楽に関してプロフェッショナルな人間がいないということを認めるところから始めたかったんだ。トレイシーはそれまで一度も人前で歌ったことはなかった。だから、歌うことを恐れていたよ。だけど、僕達は彼女に歌わせ、ついでにベースも弾かせたんだ。彼女だけじゃない。ペダル・スティールのフィーニーもドラムのリサ(・ジャノン)もバンジョーのパッチ・ボイルもバンド経験は一切なかった。それに、そういう僕だってそれまでは歌だけで、バンドでギターを弾いたことはなかったんだ。だから、メロディアスで美しい曲が作れるようになるまでは、努めてシンプルであることを目指したよ。とは言え、それでも最初の頃はアレンジ面ではかなり混乱もしたけどね」

●トレイシーと出会ったいきさつは?

「彼女とは、とあるクリスマス・パーティーで出会ったんだ。彼女は画家兼モデルとして世界中を旅していたんだよ。僕らはすぐに共鳴しあった。なぜって、お互いに好きじゃないものが一緒だったんだ。僕達はお互いを補いあうように惹かれあっている。彼女は素晴らしいミュージシャンだけど、彼女が本当に愛しているのは絵を描くことなんだ。いまはツアーで忙しいけど、彼女は絵を描きつづける時間を作ろうと努力しているよ」

●ところで、これまでどんな音楽を聴いてきたのでしょうか?

「僕の血の中には、僕が幼い頃、両親が聴いていた古いカントリー・ミュージックがしみこんでいるんだ。とは言え、僕が最初に買ったシングル・レコードはビートルズの“涙の乗車券”だった。僕は彼らの悲しい調子の歌が大好きだった。同じ理由でザ・フーとローリング・ストーンズも大好きだった。悲しい調子のロックは必ず古いカントリーやブルースのエッセンスを含んでいるものなんだよ」

●では、影響を受けたミュージシャンと言うと?

「カーター・ファミリー、ジミー・ロジャーズ、カロライナ・タール・ヒールズ、ポール・ロビソン、ニック・ケイヴ、ハンサム・ファミリー、ハンク・ウィリアムズ、リー・ヘイゼルウッド、スリーピー・ジョン・エステス、レッドベリー、ダーティー・スリー、キャレキシコ、エディ・コクラン、ジュリー・ロンドン」

●BLANCHEのデビュー・アルバム『イフ・ウィー・キャント・トラスト・ザ・ドクターズ』ではガン・クラブの「JACK ON FIRE」のカヴァーを取り上げていましたね。

「その曲が入っているガン・クラブの『FIRE OF LOVE』は僕のオール・タイム・トップ5・アルバムの1枚だ。不気味で絶望的で、同時に狂ってて、真心もこもっている。彼らは彼らが受けた影響を美しさと危険を兼ね備えた唯一無二のものに作り上げたんだ。本来はロックンロール全てがそうあるべきなんだよ」

●『イフ・ウィー・キャント・トラスト・ザ・ドクターズ』のブックレットの1ページ目に横長のテーブルに一列に並んで座っているメンバー5人の写真を見つけたとき、クランプスの『PSYCHEDELIC JUNGLE』のバック・カヴァーの写真を思い出しました。ひょっとして、クランプスも好きだったりしませんか?


BLANCHE

THE CRAMPS

「ああ。あの写真はデトロイトにある古いフリーメイソンの寺院のロッジで撮影したんだ。神秘的で、ぞっとするような雰囲気を醸し出しているだろ? 君が言うとおり、確かにクランプスが持っていた生々しさとエネルギーは僕の心を捕らえたよ。中には彼らがふざけすぎていると感じる連中もいるようだけど、彼らの音楽には常に気が触れたような雰囲気があるよね」

●BLANCHEはそのサウンドのみならず、メンバーのルックスやCDのアートワークにおいてもゴシック色を打ち出しているように思います。実際、BLANCHEをゴシック・カントリーと表現する人達もいるし、僕自身もBLANCHEの音楽を聴いたことがない人達にその音楽性を説明するとき、ゴシック・カントリーという言葉を使うだろうと思います。ゴシック・カントリーと呼ばれることについては、どう思いますか?

「ゴシックという言葉は、あるときは前向きな意味だったり、あるときはマンガチックだったり、あまりにもたくさんの言外の意味を持っている。BLANCHEには明らかダーク・カントリー風の要素があると僕は考えているし、ゴシック・カントリーという表現は妥当だと思う。だけど、同時に僕らはロックの影響もかなり受けている。多分、僕らはいびつだけど、美しいカントリー・ガレージ・ロックを作ろうとしているんじゃないかな。BLANCHEというバンドが持っている独特のムードを音楽だけに止まらず、僕らの写真やアートワーク、それにウェブサイトやビデオでも表現することは悪いことではないと思う」

●『イフ・ウィー・キャント・トラスト・ザ・ドクターズ』という皮肉っぽいタイトルには、どんな意味がこめられているんですか?

「アルバムに入っている“スーパースティション”という曲の一節なんだ。“もし我々が医者を信じることができなかったら、もし祈りを捧げる人達がばたっと倒れてしまったら……”。悲痛で、ちょっとパラノイア的な雰囲気に満ちたアルバムのタイトルに、その一節はとてもふさわしいように思えたんだ。実際、アルバムをレコーディングしているとき、長年、統合失調症を患っていた兄と、トレイシーの父親、それに僕の祖母が立て続けに亡くなった。トレイシーと僕は全ての葬式で喪主を務めなければいけなかった。彼らが死んだとき、まるで僕らに与えられていた全ての希望と愛がトイレに流されてしまったように感じたよ。僕達は医者を信じ、祈りを捧げ、医学と神が彼らを救ってくれるだろうと期待していた。けれど、結末はどうだ。アルバムのタイトルは避けられない運命と恐れの象徴なんだ。僕はそう考えている」

●そうだったんですか……。話題を変えましょう。ふだんはどんなバンドと共演することが多いんですか?

「僕達は実に幅広いバンドと共演してきた。フランツ・フェルディナンド、ホワイト・ストライプス、キャレキシコ、キルズ、ロレッタ・リン……いろいろな意味で、僕達がぴたっとハマる共演バンドはいないと思う」

●ホワイト・ストライプスのブレイク以降、デトロイトはガレージ・ロックの聖地として注目されるようになりました。さっきデトロイト・シーンにはうんざりしていると言ってましたね。と言うことは、ジャック・ホワイトと仲がいいあなたもそういうシーンからは敢えて距離を置こうとしているわけですか?

「いや、ジャックを初め、多くの友達がそのシーンに属しているからね。僕達も巻きこまれているとは言えるかな。だけど、興味深いことに、成功を収めているデトロイトのバンドの大多数が、いわゆるガレージ・リバイバリスト達ではないんだ。成功しているのは、たとえばブレンダン・ベンソンやホワイト・ストライプスのように自分達らしい音楽を作りだしている連中だけだ。そういう意味で、僕達もまた、ガレージ・シーンにはハマっていないと思う。デトロイトで最初にできたレーベル、フォーチュン・レコードはヒルビリー、ゴスペル、ブルース、ロカビリー、R&Bといったたくさんの傘下レーベルを持っていた。そして、そういう多彩な音楽の影響がデトロイトを偉大な音楽都市にした。デトロイトには40〜50年代に工場で働くために南部から移住してきた人達がいっぱい住んでいるけど、彼らは彼らが南部で聴いていた音楽も持ってきた。そういう人達の子供や孫が、ここにはまだいっぱいいるんだ」

●いま名前が挙がったブレンダン・ベンソンは『イフ・ウィー・キャント・トラスト・ザ・ドクターズ』の2曲でプロデュースを手掛けていますね。

「僕達は彼の音楽が大好きなんだ。あんな音楽狂、いないよ。もう長いつきあいなんだ」

●ただ、ベンソンとBLANCHEでは、かなり音楽性が異なると思うんですけど。

「それはそうなんだけど(笑)、でも、メロディーとアレンジに対する彼の直観と彼が持っているポップ・センスはレコーディング中、僕達をずいぶん助けてくれたよ。僕らは時折、出口を見つけられないことがあったからね。そんなとき、ブレンダンは明快な道筋を見つけくれた。彼の新作『オルタナティヴ・トゥ・ラヴ』は本当に素晴らしい。それを聴けば、多くの人が彼の才能に気づくはずだよ」

●インディーでリリースした『イフ・ウィー・キャント・トラスト・ザ・ドクターズ』を、V2レコードが再リリースしたことについては、どう考えているんですか?

「不思議だね。彼らは僕達を、何か1つのジャンルにぴったりと当てはまるように変えて、もっと売りやすくしようとでも考えているんだろうか? まぁ、彼らは僕達が作るヘンな世界を本当に気に入ってくれてはいるみたいだけどね。とは言え、彼らがリリースにまつわる諸々をやってくれるからこそ、僕達は音楽に専念できるわけだ。それは素晴らしいことだよ。グーバー&ザ・ピーズ時代、僕は“地球上で最も優れたレコーディング・カルテル(企業連合)”と掲げて、デトロイト・ミュニシパル・レコーディングスという自分のレーベルを運営していたんだけど、結局、自分達の時間を音楽を作ることよりもディストリビューションに費やす羽目になっちゃったんだよ(笑)」

●最後に、今後どんなふうにバンドを発展させていきたいですか?

「次のアルバムに関して言えば、さらによけいなものを削ぎ落としたうえで、もっとヴォーカル・ハーモニーを強化したい。新メンバーのリトル・ジャック・ローレンスは邪悪な心の持ち主なんだけど(笑)、最高のバンジョー・プレイヤーだ。奴はこれまでバンジョーに触ったことなんてなかったにもかかわらず、1週間でアルバムの曲を演奏できるようになってしまった。グリーンホーンズというバンドとジャック・ホワイトとブレンダン・ベンソンの新しいバンドでもベーシストとして活躍している。きっと彼がすごいアイディアを持ちこんでくれるはずさ。願わくば、次のアルバムはもうちょっと希望に満ちたものになってほしいけどね(苦笑)」


(インタビュー◎山口智男)



BLANCHE at SXSW
SXSW2005のステージ


『IF WE CAN'T TRUST THE DOCTORS』
BLANCHE
(V2)




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