マフスのキムに薦められ、ヴィスクイーンの『SUNSET ON DATELAND』を入手した僕はたちまち、このシアトルの3人組の虜になってしまった。
ハファキャットのメンバーだったレイチェル・フロタード(VO&G)とベン・フッカー(DS)が元ファストバックスのキム・ウォーニック(B)と01年に結成したヴィスクイーン。彼女達はこれまでに『KING ME』(02年)と前述の『SUNSET ON DATELAND』(04年)2枚のアルバムを、自らのブルー・ディスガイス・レコードからリリースしている。 そんな彼女達の音楽性は一言で言えば、ポップ・パンク/パワー・ポップということになるんだろう。しかしヴィスクイーンの場合、レイチェルが作る楽曲そしてメロディーがハンパじゃないぐらい素晴らしい!! メロディーを垂れ流しているだけのくせして、曲がいいと過大評価されているポップ・パンクあるいはパワー・ポップ・バンドが多い昨今、ソングライター、メロディー・メイカーとしてのレイチェルの才能はホンモノだと声を大にして言っておきたい。加えて、時折メタルの影響も窺わせるアグレッシヴなギター・プレイとガッツあふれるヴォーカル。今年3月、オースチンで彼女達のライヴを初めて見た僕はそのパワフルかつタフな佇まいに完全にノックアウトされてしまったのだった。もちろん、そんなレイチェルを支えるド迫力のリズム隊=ベンと現ベーシストのロニー(マフスと掛け持ち)の存在も忘れちゃイカン。 少年ナイフとのツアーがアメリカのみならず、ここ日本でも実現することを願いつつ、早速レイチェルにインタビューしてみた。 ●ヴィスクイーンはマフスやニーコ・ケイス、それに日本の少年ナイフとツアーしていますね。 「そう。2、3年前、(前ベーシストの)キムがマフスのアルバムを2枚貸してくれたんだけど、聴いたとたん恋に落ちゃった。(マフスの)キム・シャタックは最高のソングライターであると同時に最高のロック・ミュージシャンよ。ニーコも同じ。彼女の歌声は太陽の輝きと独特の暗さを合わせ持っているわ。ツアー中、毎晩、彼女のライヴを見ることは鳥肌ものだった。彼女のパフォーマンスは、まるで催眠術よ。彼女が観客に『1時間、片足で跳ねつづけて』と言えば、きっと全員がそうしたはずね。少なくとも私はそうするわ(笑)。もちろん、少年ナイフも最高よ。彼女達の演奏はライヴハウスを破壊しちゃうぐらい迫力があった」 ●現在、ヴィスクイーンはシアトルを拠点にしています。でも、あなたはシアトル生まれではないですよね。ニュージャージー出身だと聞きましたけど、いつ、どういうきっかけでシアトルに移ってきたんですか? 「そう、私は『ザ・ソプラノズ』のセットで生まれ育ったのよ(笑)。96年に高校時代の友人がシアトルからフェリーで北に3時間行ったところにあるサンファン島で結婚式を挙げたんだけど、そのままシアトルに住み着いちゃった。だって、ここに夢中になっちゃったんだもの。そろそろ変化が欲しかったってこともあったしね。月2千ドルかかるマンハッタンとは違って、シアトルならもっと快適に暮らすことができるでしょ。山に囲まれた静かな街ってところも気に入ったわ」 ●ドラムのベンとはどんなふうに知り合ったんですか? 「きっかけはベンがドラムを叩いていたハファキャットってバンドのライヴを見に行ったことね。そのとき私はちょうどスクーカムチャックってバンドを辞めたばかりで、友人が私を元気づけるためにハファキャットのライヴに連れてってくれたのよ。その1ヵ月後、私はベンに誘われてハファキャットのメンバーになったってわけ」 ●ハファキャットはどんなバンドだったんですか? 「5人組のロック・バンドだったんだけど、レネってちょっとイカれたシンガーとマンディーってメイン・ソングライター兼ギタリストがいて、私はセカンド・ギタリストだった。時々、スピード・メタルとしか言えない曲もやっていたけど、新入りの私にはイヤとは言えなかったわ(笑)。でも、なぜか新入りの私まで曲を書かされたの。そのときはそれに意味があるとは思えなかった。その後、私達はレネをクビにしたんだけど、マンディーと私はギターを弾きながら、歌も歌わなきゃいけなくなっちゃって……でも、お蔭で短期間でいろいろ覚えることができた。今思えば、最高の体験だったわね」 ●あなたは最高のソングライターだと思います。特にメロディーが素晴らしいですね。そのメロディー・センスは天性のものなんでしょうか? それともこれまでいろいろ音楽を聴いてきた結果ですか? 「ありがとう! 人前で歌うようになったのは、本当に最近なんだけど、子供の頃はよく鼻唄を歌っていたのよ。私の父もそうだった。私はそれを知らず知らずに真似ていたんだと思う。もちろん、音楽はいろいろ聴いてきた。特に70年代のロック、中でもラジオでよくかかっていたエルトン・ジョンとかスティーヴィー・ワンダーとかビートルズとかE.L.O.とかイーグルスは、よく聴いたわね。メタルやホール&オーツのようなポップスも大好きだったわ」 ●では、あなたにとって理想のメロディー・メイカーは? 「スティーヴィー・ワンダー、フレディー・マーキュリー、エルトン・ジョン、フランク・ブラック、ジミー・ペイジ、ロバート・プラント、ニュー・ポルノグラファーズのカール・ニューマン、それにニーコ・ケイス」 ●70年代のロック以外では、これまでどんな音楽を聴いてきましたか? 「長年、友人達がゾンビーズからヴァン・ヘイレンまで、あらゆる音楽を聴かせてくれたのよ。ロケット・フロム・ザ・クリプトとかガイディッド・バイ・ヴォイシズとか、新しいバンドは大抵、友人が教えてくれたのよね」 ●あなたのフェイヴァリット・アルバム5枚を教えてください。 「5枚に絞るなんて無理。だから、これは最近のもので、いま、ぱっと思いついた作品よ。スーパードラッグの『ヴァレー・オブ・ダイイング・スターズ』、ベックの『シー・チェンジ』、ガイデッド・バイ・ヴォイシズの『マグ・イヤーウィグ』、ウィーザーの『グリーン・アルバム』、ニュー・ポルノグラファーズの『マス・ロマンティック』」 ●あなたはギタリストとしてもとてもクールだと思います。ギターを手に取ったきっかけは? 「ギターを弾きはじめたのは、21歳の時よ。そのころつきあっていた彼氏が、すごいギタリストで、彼にギターの初歩からレッド・ツェッペリンの“丘のむこうに”までを教えてって頼んだのよ」 ●では、あなたのギター・ヒーローは? 「ジミー・ペイジとリンジー・バッキンガムと、それにアンガス・ヤングね」 ●オースチンで見たライヴは、どんな男性ミュージシャンよりもかっこよかったです。こういう言い方はひょっとすると失礼かもしれないけど、肝っ玉がでかいなと思いました(笑)。 「いいえ、それは最高のホメ言葉よ。でも、ステージに立っている女性はたいてい肝っ玉がでかいんじゃない(笑)」 ●音楽を通して、どんなことを表現したいと? 「何事も必ずうまく行くってことと、どんな辛いときでもユーモアを忘れないことが救いになるってことね」 ●『SUNSET ON DATELAND』は、とてもいいアルバムですね。特に「A VEWING」という曲が僕は大好きです。 「ありがとう! 私もこの曲は大好きよ。私達はその曲を演奏するとき、すごく盛り上がるのよ」 ●どんなことを歌っているんですか? 「多分、自分自身を縛りつけている固定観念に決別することについて歌っているんだと思う。1つの考えにこだわる必要はないでしょ。だって、1つの考えがダメになるってことは、別の考えが生まれることを意味しているんじゃない? 歌詞の中の“SUICIDAL”と“BRIDAL”の韻は自分でも気に入っているわ」 ●ところで、SXSW期間中、オースチンでは楽しい時間を過ごせましたか? 「もちろん。素晴らしい時間を過ごしたわ。あの時、私達は2ヵ月に渡るツアー中だったから、毎晩、ヴァンで次の街へ次の街へと移動しつづけていたんだけど、オースチンでは友人の友人の家に泊めてもらったから、とてもリラックスできた。ヴァンの座席や汚いガソリン・ステーションではなくて、キッチンのテーブルで食事もできた。そうそう、イライジャ・ウッドを目撃したわ。だけど、『フロド!』って声を掛けるの忘れちゃった。オースチンではいいライヴができたと思うし、郊外に遊びにも行けてホント楽しかった」 ●普段、家では何をして過ごしているんですか? 「大抵、妹と父と過ごしているわ。シアトルで一緒に暮らしているのよ。でも、ヴィスクイーンに関する全てのことは、自分達でやっているから。ライヴをブッキングしたり、ツアーの計画を立てたり、この小さなインディー・バンドを続けるために懸命なのよ。ツアー中ももちろんだけど、ツアーに出てないときもやることはいろいろあるの。もちろん好きでやっているんだけどね。ソニック・ブーン・レコードってレコード店でも働いている。時々、新聞に記事を書いたりもしているし、ウィルとジルっていう4歳と6歳の幼い友人のめんどうも見ている。だけど、ほとんどの時間を、私達と一緒にツアーしてくれるバンドと連絡を取ることに費やしているのよ」 ●今後、どんなふうにバンドを発展させたいですか? 「レコーディング・プロセスについて、できるだけ多くのことを学んでいきたい。大学院に行くようなものね。大学院に行く代わりに私達は常に経験から学んでいるのよ。私達は友人のピーターと自分達のレーベルを作ることに全てを捧げてきた。私達の誰もレコードを出したこともツアーしたこともなかった。そして、私達はいま自分達のやり方でやりつづけていこうと考えているのよ」 ●メジャー・レーベルと契約したいと思いますか? 「それはどうかな。何とも言えないけど、最小から最大の、どんなシチュエーションにだって、それに適したやり方があると思う。段々分かってきたんだけど、自分が作りたい音楽を何のプレッシャーもなしに作るほうが気分がいいんじゃない? もちろん、メジャー・レーベル級の人気を得られれば素晴らしいと思うけど、1つの事柄が30分しか注目されない音楽業界に自分の人生を賭けるなんて怖いじゃない(笑)。私は自分自身とベン、そしてヴィスクイーンを好きだと思っている人達にとって最高と思える曲を書きたいだけ。インディー・バンドがファンにアピールする方法は、ただ一つ。ツアーだけよ。ファンのために一生懸命やるだけ。あとは運しだい。自分がやっていることを支持してもらうことだけが私にとって最大の賛辞なのよ」 (インタビュー◎山口智男) (アーティスト写真◎Ryan Schielrling & Bradley Hanson)
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『SUNSET ON DATELAND』 VISQUEEN (BLUE DISGUISE) |