HGWT


はっきりしたアイディアはなかった。
ただ、改めて曲作りに取り組んでみようと思ったんだ



銃を片手に旅に出よう――。

まず、そんな意味のバンド名に惹かれた。
元々は50〜60年代に人気を博したテレビの西部劇のタイトルだという。
それをバンド名に選んだ理由は番組の内容と言うよりは、やはり言葉の響きだったのだろう。
きっと、それまでやっていたエモ・バンドに代わる新しいバンドを始めたとき、きっとマシュー・バーク(ヴォーカル、ギター、バンジョー他)は、自分がいまだかつて足を踏み入れたことがない荒野に旅に出るような気持ちだったにちがいない

ハヴ・ガン・ウィル・トラヴェル(以下HGWT)。
マシュー・バークが始めたソングライティングおよびレコーディング・プロジェクトが、マシューの弟、ダニエル(ベース)ら仲間を加え、やがてバンドに発展したフロリダ州タンパ・ベイエリアの5人組。

その彼らが08年にリリースした1stアルバム『Casting Shadows Tall As Giants…』は、マシューと仲間達が未知の荒野で新しい表現を開拓してきたことを思わせるオルタナ・カントリー、あるいは今風に言えば、フォーク・パンク作品だ。フィドル、バンジョー、マンドリン、ラップ・スティールといったトラディショナルな楽器の使い方もなかなか本格的。その一方で、エモ・バンド時代の名残と言えるような瞬間があるところがおもしろい。

マシュー・バーグに話を訊いてみた。



●HGWTは、どんなふうに始まったんでしょうか? あなたはチェイス・セオリーというエモ・バンドのメンバーだったそうですが、なぜチェイス・セオリーを解散して、新たにバンドを組もうと考えたんですか?

「10年ぐらいチェイス・セオリーをやって来て、なんだかマンネリになってきていたんだ。それで、他のスタイルの音楽もやってみたいと思い、そういう曲を作って、自分の家でレコーディングしはじめたんだ。そして、それをHGWTの最初のEPとしてリリースした。HGWTはそうやって始まったんだ」

●新たに曲を作りはじめたとき、音楽性と言うか、方向性ははっきりと決まっていたんですか?

「はっきりしたアイディアはなかったよ。ただ、改めて曲作りに取り組んでみようとは思ったけどね。それまで俺は一度も曲作りについて学んだことはなかった。だから、新しい音楽とともに、それに挑戦してみたんだ」

●HGWTというバンド名がかっこいいですね。元々はテレビの西部劇のタイトルなんだとか。

「そう。もう何年も前から頭の片隅にあってね。今のバンドを始めたとき、俺達がやっている音楽にぴったりだって思ったのさ」

●あなたはHGWTでパンク・ロックとトラディショナルなアメリカン・ミュージックを組み合わせようとしているんじゃないかと思うのですが、それぞれのジャンルでは、どんなアーティストから影響を受けましたか?

「弟のダニーはHGWTのベーシストなんだけど、ダニーとパンク・バンドをやっていた頃、確かに俺達はたくさんのパンク・バンドから影響を受けたよ。マイナー・スレット、フガジ、バッド・レリジョン、NOFX、ジョーブレーカー、ゴリラ・ビスケッツ、その他たくさんのバンドからね。トラディショナルなアメリカン・ミュージックは……トラディショナルなアメリカン・ミュージックと一口に言っても、そのカテゴリーには、いろいろなスタイルの音楽が含まれているよね。HGWTの曲を書いたとき、俺が影響を受けたのは、その中でもボブ・ディラン、ジョニー・キャッシュ、ハンク・ウィリアムズ、ウディ・ガスリー、それにニール・ヤングとかジェイ・ファラーとかいったアーティストだったよ」

●ジャンルにこだわらず、あなたの好きなバンドとかアーティストとかって?

「うーんと、新しい音楽や、俺にとっては新しい古い音楽を見つけるたびに好きなアーティストのリストは変わるんだけど……そうだな、トム・ウェイツは常にリストのトップだよ。彼は才能あふれるソングライターであると同時に素晴らしいパフォーマーでもある。歌詞について言えば、ボブ・ディランが一番だね。エリオット・スミスからも影響を受けたよ。それとアヴェット・ブラザーズ! 彼らも大好きだよ」

●『Casting Shadows Tall As Giants…』は、僕の08年のフェイヴァリットCDの1枚なんですけど、あなたにとって08年のフェイヴァリットCDと言うと?

「フェリス・ブラザーズのレコードかな。あの連中は素晴らしいソングライターだよ。そうだな、アイアン&ワインの『The Shepherd's Dog』は07年の暮れにリリースされた作品だけど、俺はいまだに聴いている。素晴らしいレコードだよ。それ以外は、ちょっと思いつかないな。どちらかと言うと、昔の音楽ばかり聴いているから、新しい作品を聴きつづけるってことはあまりしないんだ」

●地元の音楽シーンは、どんな感じですか?

「タンパ・ベイエリアには、いいシーンがあるよ。たくさんのいいバンドとそれをサポートする熱心なファンがいるんだ」

●僕らが注目しておいたほうがいいバンドはいますか?

「もちろん! 友達のウィル・クィンラン&ザ・ディヴァイナーズは、すごくいいよ。ウィルは俺達のアルバムの"Pins & Needles"って曲でナレーションをやってくれたんだ。他にもジェリ・X、マット・ブッチャー、レベッカ・プリー&ザ・リラクタント・プロフェッツ、ウィン・ウィン・ウィンター、ネッシー……俺が忘れているだけで、その他にもいいバンドはいっぱいいるよ」

●今後の活動予定は?

「実は、もう次のアルバムの曲に取りかかりはじめているんだ。ツアーを終えたら、レコーディングを始めるつもりだよ。今年、どこかのタイミングでリリースできたらいいね」


『Casting Shadows Tall As Giants…』
(Self-Released)

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