CHUCK RAGAN


フォークのツアーだから静かで退屈だなんてとんでもない!
俺達がこれまでやってきたどんなライヴよりも騒々しいよ



野郎臭さ満点の吠えるような熱唱 ――

チャック・レーガンと聞いて、まず思い出すイメージはそれだろう。

フロリダのド直球エモコア・バンド、ホット・ウォーター・ミュージックのフロントマンとして90年代後半〜00年代前半のパンク・シーンを駆け抜けたレーガンは06年にバンドを離れ、ソロ・アーティストに転向。エレキ・ギターをアコースティック・ギターに持ち替え、自らのルーツであるフォーク・ミュージックに真正面から取り組みはじめた。

しかし、その歌声が伝える熱情はこれっぽっちも変わらなかった。

いや、演奏がアコースティックになったことで、むしろレーガンの歌声はより剥き出しになったかもしれない。

躍進著しいロサンゼルスのレーベル、サイドワンダミーからソロ・アルバムをリリースするかたわら、レーガンは08年、アヴェイルのティム・バリー、ルセロのベン・ニコルズらとともに「ザ・リヴァイヴァル・ツアー」と銘打ち、むさくるしい男達がアコギをジャカジャカとかき鳴らしながらフォーク・ソングを歌うジョイント・ツアーを敢行した。

そのリヴァイヴァル・ツアーは全米各地で成功を収め、翌09年、前年よりも大幅にスケールアップして戻ってきた。そしてオーストラリアにも上陸。今年2010年も行われる予定だ。

フォーク・パンク・ブームのパイオニア ――

本人にそんな意識はこれっぽっちもないようだけれど、ソロ転向後のレーガンの活躍には、そんな称号がふさわしい。

昨年、最新ソロ・アルバム『GOLD COUNTRY』をリリースしたレーガンに話を聞くことができた。



●ホット・ウォーター・ミュージックを離れ、ソロ・キャリアをスタートさせた理由を、まず教えてもらってもいいですか?

「その時、ホット・ウォーター・ミュージックが陥っていたマンネリから離れたかったんだ。ツアーの繰り返しと、その単調さに疲れはて、俺はもう、いっぱいいっぱいになっていた。バンドを続けるために犠牲にしてきたものはあまりにも多かった。そういう生き方にうんざりしはじめたとき、そういう気持ちでバンドを続けるなんてまちがっていると思ったんだ。そこで立ち止まることに迷いはなかったよ。だって、音楽を止めようと思ったわけではないからね。俺達みんな、ただ休息が必要だったんだ。
俺がバンドを抜けたあと、他の連中はドラフト名義で活動を続け、俺は俺の音楽を作ることに専念した。それはホット・ウゥーター・ミュージックをやっている頃からやってきたことではあったけど、それだけに時間を使うことってはなかったんだ」

●ホット・ウォーター・ミュージックの頃を振り返って、どんなことを思いますか?

「誇りに思っているよ。俺達はとても恵まれていたよね。できることはすべてやった。あの頃のことを思い出すのは楽しいよ。だけど、俺達はまだ終わったわけじゃないし、今もまだ、活動を続けているんだから、これからのことも楽しみなんだ。新曲だってもっと作りたいし、できることならいつか新しいアルバムも作りたい。もちろん、また日本にも行ってみたいよ」

※ホット・ウォーター・ミュージックは07年に再結成。現在、レーガンはホット・ウォーター・ミュージックとソロを掛け持ちしている。

●現在はソロ・アーティストとしてフォーク色濃い音楽をやっているけど、フォーク・ミュージックはいつ頃、聴きはじめたんですか?

「子供の頃、そういう音楽を聴いて育ったんだ。そういう音楽が俺を育てたと言ってもいい。フォーク・ミュージックは常に身近にあったよ。ただ、ある程度、歳をとるまでは、敢えてやろうとは思わなかった。15年、いや、20年ぐらい俺はフォーク・タイプの音楽も演奏してきたけど、この5年間、改めてそういう音楽に専念しているんだ」

●フォークでは、たとえばどんなアーティストを聴いてきたんですか?

「タウンズ・ヴァン・ザント、ボブ・ディラン、スティーヴ・アール、ボブ・シーガー、レッドベリー、ベン・ニコルズ、ティム・バリー、フランク・ターナー、ジョン・スノッドグラス(ドラッグ・ザ・リヴァー)……挙げ出したらきりがないよ(笑)」

●ここ数年、多くのパンク・ミュージシャンがアコースティック・ギター片手にフォーク・ソングを歌いはじめ、そんな動きは「フォーク・パンク」と言われ、急激に大きなムーヴメントになりつつあります。あなたはそんなムーヴメントのパイオニアと言ってもいいと思うんですけど。

「そんなふうに言ってもらえるなんて、とても光栄ではあるけど、俺にはもったいない。リヴァイヴァル・ツアーを始めたときは、もちろん興奮したけど、アイディアそのものはちっとも新しいものではなかった。今起こっていることは、たぶん俺達のシーン、あるいは俺達の世代にとっては新しかったかもしれない。でも、これまでどこにもなかったというわけではない。俺達はフォーク・ミュージックを愛する気持ちから、それをやっているけど、中には俺達とは違う理由でやっている連中もいるかもしれない。音楽のスタイルとかムーヴメントには常に流行りすたりがあって、今日、人気があるからって明日もまだ、人気があるとはかぎらない。本物と言えるものは、それがアンダーグラウンドのものだとしても、ちゃんと残るはずさ。流行だからというまちがった理由で、今、フォーク・ミュージックをやっている連中はいずれ消えるか、流行が変わったらまた違う音楽に移るだけだよ。俺達の周囲においては極々自然な進化であると同時に本物と、そうではないものをよりわけるために必要なことだったと信じているよ」

●リヴァイヴァル・ツアーについて聞かせてください。リヴァイヴァル・ツアーを始めたそもそものきっかけは?

「俺達が信じている音楽を、ファッションで音楽を聴いているわけではない人達に知ってほしいと考え、ワイフと俺が始めたんだ。見過ごされている才能がいっぱいいるんだよ。インディペンデントのアートや音楽をサポートするために自分達にできることをやるのは、とても大事なことだ。できることなら、影響や刺激を与えるという形で、そのバトンを誰かに渡して、同じようなことをしてもらいたい。ツアーを通して、最近のロックのショウに失われてしまった仲間意識を訴えたかったんだ。誰がヘッドライナーでもオープニング・アクトでもいい。そういうつまらない決まりごとをぶち壊したいんだよ。リヴァイヴァル・ツアーでは出演順は頻繁に変わるし、毎晩、違う。変わらないことは唯一、全員でショウを始めることと、全員でショウを終えることだけなんだ」

●リヴァイヴァル・ツアーを通して、何を蘇らせようと考えているんですか?

「人間らしさだよ。今までみんなが観てきたライヴ以上に刺激を与える音楽と演奏を届けたいんだ。だって、ライヴを観にきているんだって実感してほしいからね」

●リヴァイヴァル・ツアーに来るお客さんって、アメリカではどんな人達が多いんですか? 日本ではパンク/ハードコア・ファンの大半は、フォーク・ミュージックは自分達には静かで退屈なものだと思っているんですよ。

「リヴァイヴァル・ツアーが静かで退屈だなんてとんでもない! むしろ俺達がこれまでやってきたどんなライヴよりも騒々しいよ。もちろん、じっくりと曲を聴かせるようなところもあるけどね。ライヴはいつもエネルギーに満ちあふれ、感情の波と歌が情熱とともに混ざり合っているよ」

●若いパンク・ファンも来ますか?

「もちろん! 年上のお客さんだけではなく、パンク・キッズも来るよ。リヴァイヴァル・ツアーには幅広いお客さんが来る。思うに、その混じり合いがライヴを素晴らしいものにするんだ」

●昨年、リリースした3作目のソロ・アルバム『GOLD COUNTRY』についても話を聞かせてください。前作の『FEAST OR FAMINE』よりもフォーク色濃い作品だと思いました。『GOLD COUNTRY』を作るにあたっては、どんな作品にしたいと考えていたんですか?

「気心の知れた友人達と作ることと、ライヴのサウンドに近づけたいと思っただけだよ。セルフ・プロデュースで作った初めてのアルバムなんだ。できるだけ生々しい作品にしたかった。前もって考えていたことは、それだけだよ」

●07年にオースティン・ルーカスと連名でリリースした『BRISTLE RIDGE』は、本格派のフォーク作品でしたけど、『BRISTLE RIDGE』を作った経験は、『GOLD COUNTRY』を作るとき役立ちましたか?

「どんなレコードでも次のレコード作りのインスピレーションやステップになると思う。また同じような作り方をするにしても違うやり方をするにしてもね。『BRISTLE RIDGE』のセッションは素晴らしかった。だって、参加ミュージシャンの半分が初対面だったにもかかわらず、全員が『せーの』で演奏して、6日間で終わらせてしまったんだからね」

●『GOLD COUNTRY』というタイトルの意味は?

「俺達が暮らしているところを、俺達はそんなふうに呼んでいるんだ。カリフォルニアのシエラネバダ山脈の麓にある丘なんだけど、1800年代のゴールドラッシュの時、そこら中で金が採れたらしい。俺にとっては、第2の故郷みたいなものだ。懸命に働きたいとか帰りたいとか思えるすべてがそこにあるんだ」

●そういう作品を通して、何を伝えたいと?

「物語だよ。もっとも、それは『GOLD COUNTRY』に限ったことではなく、俺のすべての作品に言えることではあるけど、俺自身の物語や俺を刺激した物語を伝えたいんだ。俺にとって、音楽を作ることは、ある意味セラピーなんだよ。それに誰かに説教したり、どう生きるべきか他人に説いたりする権利が俺にあるとは思っていない。誰だって自分自身の心に従って生きるべきなんだ。もちろん、みんなが俺の音楽から何かを得たり、感じたりしてくれたら、それはそれで素晴らしいことだとは思う。だけど、そういう目的で音楽を作ったら大事なことを見失ってしまうだろうね。俺がそもそも音楽をやりはじめた本当の意味と理由をね」

●では、最後の質問です。あなたにとってフォーク・ミュージックの魅力とは?

「シンプルであることと正直さに尽きるね」

(インタビュー◎山口智男)


『GOLD COUNTRY』
(SIDEONEDUMMY)


『THE REVIVAL TOUR
FALL 2009 COLLECITION』
(TEN FOUR)
09年の参加アーティストの楽曲を収録した2枚組CD。その豪華な顔ぶれがツアーの盛り上がりを想像させる。

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