DEER TICK


ハンク・ウィリアムズを尊敬しているけど、
俺達はいまだにニルヴァーナが大好きなんだ



ロード・アイランド州プロヴィデンスの4人組ディアー・ティック。

鹿ダニというバンド名やプレス用のバンド写真を見てもわかるように、ちょっとおかしなバンドなのである。


イアン加入前のプレス写真
マシンガンを持ったビキニギャルとメンバーが一緒に映った1stアルバム『War Elephant』のジャケットもかなりイカれていると思ったけど、これ見よがしにライフル銃を手にしたメンバー達のプライベート写真を見たときは、「こいつらどういう連中なんだろう?!」と戦慄せずにいられなかった。

頭のネジが相当に緩んでいると言うか、紙一重と言うか、物騒と言うか、こういう連中がウヨウヨしているんだからアメリカのローカル・シーンはたまらない――と、すっかりとりつかれてしまった。

そんな彼らの結成は04年。

元々は、ほぼ全曲のソングライティングを手がけているジョン・マッコーリー3世(Vo, G)のソロ・プロジェクトだったという。

ハンク・ウィリアムズを聴き、自分でも曲を書きはじめたというジョンのフェイヴァリット・アルバムはニルヴァーナの『イン・ユーテロ』。ジョンのみならず、他のメンバー達もニルヴァーナやパンク・ロックは、かなり聴いてきたようだ。

バンドとして体裁を整えたディアー・ティックが09年6月にリリースした2ndアルバム『Born On Flag Day』は、ジョンの曲作りの才能とともに、そんなバックグラウンドを見事に反映させた作品だった。彼らは少なくない数のプレスから注目され、『Born On Flag Day』はビルボードのヒートシーカーズ・チャートの17位、トップ・インディペンデント・アルバムの44位に食いこんだ。

アルバムの内容も含め、ジョンにいろいろ聞きたいと思い、インタビューを申込んだところ、なぜか昨年8月に加入した新ギタリスト、イアン・オニールが質問に答えてくれた。

やっぱり、おかしな連中だ。

すでに完成させたという3rdアルバム『The Black Dirt Sessions』のリリースは、5月の予定だそうだ。

元タイタス・アンドロニカスのメンバーだったイアンが加わったことで、ディアー・ティックのサウンドがどんなふうに変化しているかが今から楽しみだ。



●ジョンはハンク・ウィリアムズを聴き、自分でも曲を書きはじめたそうですね。

「らしいね。彼がハンク・ウィリアムズからどんなふうに影響を受けているか、俺には答えられないけど、ジョンのみならず、メンバー全員がハンク・ウィリアムズを尊敬しているよ」

●ハンク・ウィリアムズを聴くようになったきっかけは?

「アメリカン・ミュージックの血筋を辿っていったら出会ったんだ」

●どんなところに惹かれたんですか?

「だって、彼は素晴らしいソングライターであると同時に素晴らしい歌声の持ち主じゃないか。誰も彼には叶わないよ」

●ハンク・ウィリアムズに出会うまでは、どんな音楽を聴いていたんですか?

「ニルヴァーナ。俺達はいまだにニルヴァーナが大好きなんだよ」

●たぶんプロヴィデンスはほとんどの日本人にとって、それほど馴染み深いところではないと思うんですけど、どんなところなんですか?

「とても変化に富んだところだよ。治安の悪い地域もあるし、いい地域もある。イタリア料理がオススメだよ(笑)。アート・スクールとアイヴィー・リーグの学生もいる。いろいろな人達が暮らしているんだ。きっと、どんな人でも疎外感を感じることはないだろう。暮らしやすいところさ。家賃も高いってほどではないから治安のいい地域に住もうと思えば、簡単に住めるしね。ロード・アイランドの人達は、そこで暮らしている人達を特徴づけている、らしさ――州民性にプライドを持っているよ」

●音楽シーンはあるんですか?

「うん、とてもユニークだよ。製造業が苦戦している他の街と同じように空き倉庫がいっぱいあるんだけど、若い連中がそういう倉庫を使って、しょっちゅうライヴをやっているよ。その中ではAS220ってヴェニューが有名かな。そういうシーンの主流は、騒々しい音楽だけど、ここにはクリス・パドックやリズ・アイゼンベルグのような素晴らしいソングライターも住んでいる。リズは俺達の『Born On Flag Day』でも歌っているから知っているだろ?」

●ええ、もちろん。ところで、昨年の10月31日にソニック・ユースとセックス・ピストルズのトリビュート・ライヴをやったんだとか。

「ああ。ハロウィーンのパーティーでね。俺達がセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ』を丸ごとカヴァーして、友人のデッド・コンフェデレイトってバンドがソニック・ユースの曲を演奏したんだ。楽しかったよ! ろくすっぽ練習もせずにステージに立ったから俺達はメチャメチャ、ビビッてたけどね。シド・ヴィシャス役のベースのクリス(・ライアン)がグラスを投げつけたり、酔った勢いでブリティッシュ・アクセントでグダグダと喋ったりしたおかげで、それっぽい雰囲気になったよ!(笑) 奴はわざわざ眉毛と髪を真っ黒く染めたんだぜ。ライヴが終わったら緑色に染め直したけどね。俺達はお互いにビールを吐きあうだけじゃ満足できず、客にまで吐きかけたんだ。で、ライヴが終わった後は、なぜか楽屋で怒鳴りあいさ。あれはとんでもない夜だったね(苦笑)」

●以前、ミスフィッツのトリビュート・ライヴに出演したこともあるんですか? アンドリュー(・グラント・トビアッセン/ギター。すでに脱退)がミスフィッツのTシャツを着ている写真や、デニス(・マイケル・ライアン/ドラムス)がデヴィロック・ヘアーにしている写真を、バンドのMySpaceで見たんですけど。

「さあ、どうかな。ディアー・ティックがミスフィッツのトリビュート・ライヴをやったって話は聞いたことはないな。ミスフィッツはみんな大好きだけどね。"Last Caress"と"Where Eagles Dare"は特に好きだな」

●オルタナ・カントリーやフリーク・フォークと呼ばれることに居心地の悪さを感じているそうですね?

「メンバー全員がシンプルにロックンロールと表現されることを望んでいるよ。だって、オルタナ・カントリーとかフリーク・フォークとかって言葉は、なんだか窮屈だからね。そういう言葉を使ってしまうと、僕らが型にハマった音楽をやっているような誤解を与えると思うんだよね」

●でも、ディアー・ティックの音楽のユニークさは、ロックンロールの一言では伝えきれないと思うんですけど。

「メンバー全員、カントリー・ミュージックは大好きだけど、ライヴ・パフォーマンスや俺達の気持ちという意味では、ロックンロールって言葉を使ったほうがより可能性があるように感じられるんだ。今後、俺達がリリースする作品はトラディショナルなカントリーからは、どんどん離れるだろうね。たとえ、それがどんな方向だとしても、自分達の音楽性を自由に広げていきたいと考えているなら、自分達の音楽性は曖昧にしておいたほうがいい。俺達がリリースするレコードが毎回、カントリーだなんてわかってたら、みんなつまらないだろ?」

●昨年、リリースした2ndアルバム『Born On Flag Day』はバンドにとって、どんな作品になりましたか?

「メンバーの気持ちを代弁すれば、メンバー全員が誇りに思っているよ。前作の『War Elephant』よりもバンドが出しているサウンドに近づけたし、何よりも『ロックンロール作品だったからね」

●タイトルの意味は? たぶん多くの日本人にとって、"Flag Day"という言葉はピンと来ないと思うんですけど。

「"Flag Day"は6月14日の国旗制定記念日のことだよ。ジョンはその日に生まれたんだ。タイトルどおりね。多くのアメリカ人がこのタイトルを聞いて、国旗制定記念日のことを思い浮かべると思う。だけど、今は国旗制定記念日のことなんて誰も気にしちゃいないんじゃないかな」

●「Friday XIII」という曲で、ジョンは「映画『13日の金曜日パート9 ジェイソンの命日』を見て以来、俺はずっとひきこもっている」と歌っていますね?

「ジョンの個人的な体験について、俺が答えることはできないけど、彼がその曲で言及している映画って、『Jason Goes to Hell』ってサブタイトルがついているやつだよね。俺個人は『13金』シリーズのファンだよ。たぶん、ジョンはその曲を、彼らしいものにするために彼ならではの表現として、その映画を使ったんだと思うよ」

●では、最後の質問です。ディアー・ティックの目標は?

「永遠にロックンロールしつづけることと、毎日パーティーすることだね」

(インタビュー◎山口智男)


『BORN ON FLAG DAY』
(PARTISAN)

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