JENNY OWEN YOUNGS


鋲付きの革ジャンを着た男達が
「ぶちかましてやれ、ネエちゃん!」と叫ぶわけよ。
それってすごいでしょ?(笑)



ニューヨークのアンチ・フォーク・シーン出身と紹介されることが多いジェニー・オーウェン・ヤングス。しかし、アンチ・フォークと聞いて、多くの人が思い浮かべるエキセントリックなところは、彼女の歌にはない。

それよりも天真爛漫とか可憐とかガーリーとか、彼女の歌の魅力を語るときには、そういう言葉のほうがふさわしい。

ニューヨーク州立大学に通いながら、ニューヨーク界隈のクラブで歌いはじめた81年生まれのニュージャージーっ娘。『Soviet Kitsch』のヒットによって、脚光を浴びていたレジーナ・スペクターのツアー・サポートに抜擢されたことが、その後のキャリアにとってステッピンストーンになったことは言うまでもない。05年、1stアルバム『Batten The Hatches』を自主リリース(その後、現在の所属レーベル、ネットワークによってリイシューされた)。そこに収録されていた「Fuck Was I」がテレビの人気シットコムに使われ、さらなる注目を集めるようになった。

昨年、4年ぶりにリリースした2作目のアルバム『Transmitter Failure』はフォーキーでジャジーだった前作から一転、ブルックリンのインディー・ロック・バンド、エイジ・オブ・ロケッツのメンバーが演奏を務めたロック・アルバム。モノクロの世界がカラフルになったことを思わせる多彩な楽曲が、前作では伝えきれなかった魅力をアピール。

時折、挿しこむ大胆な歌詞がガーリーな佇まいに秘めた情熱を窺わせる。

名前の頭文字は、JOY(歓喜)。彼女のコラム「Oh hey, I didn't see you there」の自己紹介文「I write songs, record stuff, go on tour and have tons of girl-feelings…sometimes all at once. Whee」の「Whee」(わーい! やった!)という言葉に彼女の魅力が集約されている。

アメリカのメディアはリズ・フェアー、エリン・マッキューン、キャット・パワー、ネリー・マッケイの名前を挙げて、彼女のことを紹介している。



●昨年の秋、友人のレジーナ・スペクターとヨーロッパをツアーしたんですよね。

「そう! とても楽しかった! あれは本当に素晴らしいツアーだった!」

●ツアー中のエピソードで何かおもしろいものってあります?

「そうね。グラスゴーでレジーナが"ダンス・アンセム・オブ・ジ・エイティーズ"を歌っているとき、一人の女の子が興奮してステージにシャツを投げこんだのね。それがたまたま歌っているレジーナの顔に当たっちゃったの! 最悪の状況でしょ。でも、レジーナはそれをさっと放り投げると、ジョークを飛ばして、まるで何事もなかったように演奏しつづけた! それはもう見事だった。その一部始終は、YouTubeで見ることができるわよ」

●ところで、ジェニーは14歳の時にギターを弾きはじめたそうですね。ギターを手に取ったきっかけって?

「中学生の頃、ギター作りの職人をやっていた義理の兄が貸してくれたの。すぐに夢中になったわけではないけど、兄に教えてもらったら、その頃、ラジオで聴いていた大好きな曲を弾けるようになって、それがきっかけで真剣に練習するようになったのよ」

●その頃は、どんな音楽を聴いていたんですか?

「90年代のロックね。グリーン・デイ、ニルヴァーナ、アリス・イン・チェインズ、スマッシング・パンプキンズ、シルヴァーチェアーとかね。中でもクランベリーズは長い間、私の一番のお気に入りのバンドだった。最近はビートルズとかビーチ・ボーイズとか、エリオット・スミス、ストロークス、ホワイト・ストライプスなんかを聴いているけど。あ、それと、もちろんパラモアもね!」

●ニューヨークのアンチ・フォーク・シーンの出身と紹介されることが多いですよね。ジェニー自身はアンチ・フォークって、どんなものだと考えていますか?

「アンチ・フォークって言葉は何か特定の音楽を意味しているわけではないってところがいいのよ。アンチ・フォーク・シーンの良さは、もっぱらDIY精神と、やりたいことをやれっていう、技巧よりも気持ちを重んじる姿勢にあるって私は思ってる。もちろん、だからってアンチ・フォーク・シーンに技巧派のアーティストがいないってわけではないけどね」

●では、アンチ・フォーク・シンガーと紹介されることについては?

「全然気にしてない。でも、それほどアンチ・フォーク・シーンと深い関わりがあるわけではないんだけどね」

●昨年、チャック・レーガンが主催するフォーク・パンクの巡業型フェスティバル、ザ・リヴァイヴァル・ツアーに参加しましたね。

「そう! あれはとてもラッキーだった!」

●どういういきさつで参加することになったんですか?

「私のブッキング・エージェントがチャックのブッキング・エージェントに推薦してくれて、幸運なことにチャックも私のことを気に入ってくれたのよ」

●タトゥーだらけのならず者風のミュージシャン達と、ずっとツアーしたわけですよね。

「ええ、そうね」

●居心地悪くはなかったですか?

「あぁ、それ(笑)。もちろん初日はとても緊張したわ。共演者ももちろんだけど、お客さんも荒くれ者ばかりじゃないかと心配してたから(苦笑)。だけど、ありがたいことにツアーに参加したミュージシャンはみんな気取りがなくて、やさしくて、ツアーで私が会った人達と同じように私を歓迎してくれた。それに、あなたがならず者と呼んでいるミュージシャン達のファンは、とても協力的なのよ。それを知ったときは感動しちゃった。それに鋲付きの革ジャンを着た男の人達が、私が演奏する前に『ぶちかましてやれ、ネエちゃん!』とか何とか、そんなことを叫ぶわけよ。それってすごいでしょ?(笑)」

●1stアルバムの『Batten The Hatches』に収録されている「Fuck Was I」という曲が『Weeds〜ママの秘密』というテレビ・ドラマに使われたことがきっかけで、現在の所属レーベルであるネットワークと契約を結ぶなど、アーティストとしていろいろな扉が開いたようですね。

「そう! 『Weeds〜ママの秘密』は本当に素晴らしい番組よ。私の曲がその番組に1度のみならず、2度も使われたなんて、とても光栄だわ。この間、"Here Is A Heart"も使われたのよ。そうね、ドラマに使われたことはもちろん、それによって私の音楽が多くの人達に注目されたことにはとてもわくわくさせられたし、ラッキーだったと思ってる」

●『Weeds〜ママの秘密』以外に好きなテレビ・ドラマってありますか? 日本でもけっこうアメリカのテレビ・ドラマって観られるんですよ。

「『マッドメン』はお気に入りよ。それと最近、『ザ・ソプラノズ』を見始めたところでしょ。どちらもおもしろいわ。コメディーなら『30 Rock』が一番ね」

●昨年5月にリリースした2ndアルバム『Transmitter Failure』について質問させてください。そのアルバムは09年の僕のトップ5・アルバムの1枚なんですけど、前作の『Batten The Hatches』に比べ、よりロック色が濃い、とても生き生きとした作品になりましたね。アルバムを作るにあたっては、どんな作品にしようと考えていたんですか?

「ありがとう! 私もとても気に入ってるわ。作りはじめたときは、どんなレコードになるか全然わからなかった。ただ、曲を書いたり、アレンジを考えたりしているときは、ライヴで楽しめるようなレコードにしたかった。プロデューサーを務めた親友のダン・ロマーが私の頭の中にあるぼんやりしたアイディアをはっきりと形にしたうえで、ロッキンなアレンジを加えてくれたのよ。アルバムがああいう作品になったのは、まさに彼のお陰!」

●「Secrets」という曲を、ジャスティン・ピエールと共作していますね。彼のバンド、モーション・シティ・サウンドトラックは、日本でとても人気があるんですよ。どういうきっかけで、彼と共作することになったんですか?

「ジャスティンと私はパブリッシャーが同じなの。パブリッシャーを通じて知りあったんだけど、知りあったとたん、お互いの音楽のファンになったわ。"Secrets"はずっと仕上げられずにいた曲だったのよ。新しいパートが必要だったにもかかわらず、私にはどうしても書けなかった。それでジャスティンに未完成の曲を送ってみたところ、彼は新しいパートをレコーディングして送り返してくれたんだけど、それがパーフェクトだった! できることなら、この次は実際に同じ部屋で一緒に曲を書いてみたいな」

●音楽を作ったり演奏したりしていないときは、どんなふうに過ごしているんですか?

「音楽を演奏していないときは、大体、コンサート会場にいる!(笑) 音楽から離れるなんて、私には無理だもの。もちろん、本を読んだり、写真を撮ったりするのも好きよ。最近はポラロイド・カメラで、いろいろな写真を撮ってるのよ」

●今後の予定を教えてください。

「3月の最初の3週間、アメリカをツアーする。それからモーション・シティ・サウンドトラックのUKツアーでオープニング・アクトを務める。今からとても興奮しているのよ! そしてそれが終わったら、家に帰って次のレコードに取り掛かる!」

●ところで、ジェニーがブログで日本版と紹介していた映画『Juno』のポスターは実は中国版なんですよ。

「あら! でも、あれは私が書きこんだんじゃないのよ。私は誰かが書きこんだものに返答しただけよ。だから、私が日本版と言ったわけじゃないわ」

●あ、そうなんですか。それは失礼しました。ブログのシステムがちゃんとわかってませんでした。

「ううん、いいのよ、別に。私もあのブログが誰かの気分を害しているんじゃないかってちょっと気になってたところだったのよ」

(インタビュー◎山口智男)


『TRANSMITTER FAILURE』

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