LUCERO


コーチェラとボナルーに出る。
秋にはオースティン・シティ・リミッツ・フェスティバルにも出る



今年のSXSWは例年以上に観たいと思っていたバンドの演奏時間が重なるというバッティングが多かった。

お陰で、バンド自ら主催したルセロ・ファミリー・ピクニックの他、ブルックリン・ヴィーガンや(煙草の)キャメルのパーティー、そして湖畔のオーディトリアム・ショアーズ・ステージに出演したルセロのライヴは、オースティン滞在最後の夜となる土曜日のオーディトリアム・ショアーズのパフォーマンスしか観られなかった。しかも、その日の未明にオースティンを襲った暴風雨の影響でイベントが3時間遅れでスタートしたため、取りのシー&ヒム以外の5組は演奏時間が20分に短縮されてしまうという、ちょっと、いや、かなり物足りないライヴになってしまった。

もっともルセロの演奏そのものはとても気合が入っていたし、大きなスクリーンに映し出された彼らの姿を観たときは、それなりに感慨深いものがあったので、たとえ20分でも真冬を思わせる寒さの中、吹きさらしの湖畔のステージまでわざわざ観にきた甲斐はあったとは思うけれど。

前日の昼間とライヴの直前、ベンには会っていたけど、他のメンバーにも挨拶したいなと思い、演奏終了後、ステージの脇で待っていると、なぜかスタッフがバックステージ・パスをくれたので、メンバーに会いにいってみた。

まずドラムのロイを見つけ、「やあ」「やあ」と挨拶を交わす。3月上旬、ジョージア州オーガスタで暴漢に襲われ、顎を骨折した彼はドラムを叩けるまでには回復したものの、いまだ流動食しか食べられない状態で、完治にはまだ6週間ほどかかると、はっきり喋ることができないその顎が痛々しかった。

次いでギターのブライアンを発見。「今回はでっかいステージだね!」と声をかけると、ブライアンはガッツポーズ。

ベンは…誰かと話をしている。そこにベースのジョンが現れ、その巨体で家人と僕を力いっぱい、息ができないほど抱きしめる。ステージで何かのボトルをラッパ飲みしていたジョンはすでにゴキゲンだ。



「ステージで何飲んでたの? ジャミソン?」

「ううん、赤ワインだよ。メルローなんておしゃれだろ(笑)。ところで、新しいアルバムのホーンは気に入ったかい?」

「もちろん!」

「よかった! あれは俺のアイディアなんだ。最初、ベンは『ホーンってどうなの?』ってあまり乗り気じゃなかったんだけど、ホーン・プレイヤーを雇う金は俺が出すからやらせてくれと言って、まず2曲試しにやってみたんだ。そしたら、なかなかいいじゃないかってことになって、ホーンをフィーチュアした曲がどんどん増えていったんだよ」

「へえ、そうだったんだ。ところで、この後はメンフィスに帰るの?」

「いや、これからドライヴ・バイ・トラッカーズとシューター・ジェニングスとツアーするんだ。シューターは知ってる? ウェイロンの息子だよ。それからコーチェラとボナルーに出るよ」

「え、コーチェラ? マジで?! それはすごいね!」

「秋にはオースティン・シティ・リミッツ・フェスティバルにも出る。その3つが俺の好きなフェスティバルなんだ」

「どんどんビッグになっていくね」

「そんなふうに見えるかい?(笑) 今、俺達はホーン隊がいるからヴァンじゃなくてバスでツアーしているんだぜ」

「うん、知ってる知ってる。いまやメジャー・レーベルのバンドだもんね」

「それはどうかな」

「そうそう。木曜の夜、ジョン達を探しにいったら、コディー・ディッキンソンと会ったよ」

「ああ、コディーから聞いたよ。彼女といたら日本人のカップルにジョンを呼んできてって頼まれたってこぼしてたよ(笑)。この間、コディーと一緒にコディーの新しいバンド、ヒル・カントリー・レヴューの新作のプロデュースをやったんだ」

「へえ、プロデュースを。ヒル・カントリー・レヴューの日本盤のライナーノーツを書いたよ」

「そりゃいいね。新作はすごくエネルギッシュな作品になったよ。まるでブラック・フラッグみたいなんだ」

「ブラック・フラッグ?! それホント?」

それには答えず、ジョンは爆笑。

「飯でも食べる?」

「いや、これから別のライヴを観にいかなきゃ」

「じゃあ、またどこかで会おう。(日本語で)カンパーイ!」

そう言って、ジョンは他のメンバーと別れ、昼食を食べた店に置き忘れたカバンを取りにいったのだった。

(文◎山口智男)


『1372 OVERTON PARK』
(UNIVERSAL REPUBLIC)

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