MURDER BY DEATH


多くの人達がバンド名のせいで、
俺達のことをデス・メタル・バンドだと勘違いしているみたいだね(笑)



ヴェイグラント・レコードがボルチモアのロックンロール・バンド、J・ロディー・ワルストン&ザ・ビジネスと契約したと聞き、ちょっとびっくりしながらも、なるほどと思った。

ゲット・アップ・キッズやダッシュボード・コンフェッショナルの成功とともにエモ・シーンを代表するレーベルという評価を確かなものにした2000年代前半も今は昔。実は、その当時からエモ以外のジャンルのアーティストにも興味を示していたヴェイグラントは今や、エモに止まらない多彩なアーティストを擁するレーベルに発展した。

むしろ、現在ではエモ系のバンドのほうが少ないぐらいなのだが、所属バンドの顔ぶれを眺めてみると、ホールド・ステディーを筆頭に、そこに、これまで以上にアメリカン・ロック色濃い、場合によっては、アメリカーナ ―― よりアメリカ的なものへの回帰と表現してもいい一つの流れがあることに気づく。

前述のJ・ロディー・ワルストン&ザ・ビジネスは、まさにそんな流れを、今後担っていくべき期待の存在だと思うのだが、アメリカーナと言えば、サウンドのみならずヴィジュアルも含めワイルド・ウエスタンかつサザン・ゴシックな世界観を強烈にアピールしているマーダー・バイ・デスの存在を忘れることはできない。

インディアナ州ブルーミントン出身の4人組。結成は2000年。

結成間もない頃、ブルーミントンにやってきたサーズデイと共演したとき、サーズデイのフロントマン、ジェフ・リックリィに気に入られた彼らは、リックリィの推薦によって当時、サーズデイが所属していたアイボール・レコードと契約を結び、02年8月、1stアルバム『LIKE THE EXOCIST, BUT MORE BREAKDANCING』を発表。

その後、レーベルを転々としながらリリースを重ね、決して万人受けはしないものの、中毒性の高い漆黒のゴシック・ロックによって、ファンを増やしつづけてきた。

08年からは、すでに書いたようにヴェイグラントに所属。今年4月にはヴェイグラント第2弾アルバムとなる『GOOD MORNING, MAGPIE』をリリースして、成熟したバンドの姿をアピール。3月のSXSWではヴェイグラントのショウケースに出演。J・ロディー・ワルストン&ザ・ビジネス、ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブらとともに現在のヴェイグラントのレーベル・カラーを印象づけた。

イギリスを含むヨーロッパ・ツアーを目前に控えたバンドを代表して、フロントマンのアダム・ターラ(Vo, G)がインタビューに応じてくれた。



●女性チェロ奏者を擁するマーダー・バイ・デス(以下MBD)は、その編成からしてユニークなバンドだと思うんですけど、結成したときからサラ・バリエット(チェロ、キーボード)はメンバーだったんですか?

「もちろん! バンドを始めてかれこれ10年になるけど、サラは最初からメンバーだったよ」

●そもそもMBDはどんなふうに始まったんですか?

「俺達は元々、飲み仲間だったのさ。で、ある時、全員が何かしら楽器ができることに気づいた。それで、じゃあバンドでもやってみるかってことになったわけさ」

●インディアナ州のブルーミントンは、多くの日本人にとってそれほど馴染みがあるわけではありません。どんなところなんですか?

「農場に囲まれた小さな町だよ。大学もあるけど、音楽シーンはまだまだこれからだね。でも、俺達はブルーミントンが大好きなんだ。ツアーから戻ってくるにはいいところさ。鹿とか、たくさんの種類の鳥とか、大きな町をツアーしていると見られないものを、ここに帰ってきて目にするとホッとできるんだよ」

●結成したときはリトル・ジョー・グールドというバンド名だったそうですね。その後、現在のMBDに改めたそうですけど、そのバンド名は76年の同名映画(日本では『名探偵登場』というタイトルで知られている)からつけたそうですね。

「そう。言葉としては意味のないジョークではあるんだけど、ダークな響きのあるそのタイトルが気に入っていたんだ。その映画は殺人ミステリーのパロディーで、俺達は子供の頃、それを見てずいぶん笑ったよ。それをバンド名にしたらおもしろいんじゃないかって思いついたんだ。多くの人達がバンド名のせいで、俺達のことをデス・メタル・バンドだと勘違いしているみたいだけどね(笑)」

●MBDの音楽を初めて聴いたとき、ジョニー・キャッシュとかニック・ケイヴとかを思い出しました。メンバーはどんなバンドに影響を受けているんでしょうか?

「サラは元々、クラシック畑の人間だけど、俺はブルースを学んでいた。ベースのマット(・アームストロング)はエクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイとかモグワイとかのようなバンドが好きで、ドラムのデイガン(・ソガーソン)はハード・ロックとメタルの大ファンだ。つまり、MBDの音楽は、俺達全員が全然違う音楽を聴いてきたという事実に由来しているんだ」

●では、あなたに最も影響を与えたアーティストと言うと?

「アニマルズのシンガーだったエリック・バードンだね。低い声で歌っていたバードンが曲の盛り上がりで吠えるようにシャウトするところが堪らないんだ。音楽の趣味に関して、俺達は意見が一致したことがない。だから、誰それのように演奏しようと考えたこともないんだ。俺達の嗜好はそれぞれに違うけど、音楽に比べたら映画とか本とかのほうがまだ趣味が重なるかもしれないな」

●サウンドやヴィジュアル・イメージで打ち出している西部開拓時代やサザン・ゴシック風の世界観がMBDの大きな魅力ですね。

「歌詞を含め、曲を作るときは常にMBDならではの世界を作り出したいと考えている。リスナーがそこに浸れるような世界観を曲に持たせたいんだ。俺達の歌の世界に描かれている無法地帯とか、ならず者とか、過酷な物語とかが西部開拓時代を思わせるんだろうね。だけど、周りの人達に言われるまで、俺自身はそれが西部開拓時代を思わせるとは考えたこともなかったよ。でも、MBDというバンドを理解するきっかけという意味では、それはなかなかいい指摘だね。俺達の曲のほとんどは作り話なんだけど、みんながその物語を楽しんでくれているならうれしいね」

●MBDが打ち出している、そういう世界観は21世紀の現代社会で生活しているアメリカ人にとってリアリティーあるものなんですか?

「多くの人達にとって、MBDの音楽は現実逃避なんだと思うよ。俺達のライヴには時々、まるで俺達の歌の登場人物が現代に蘇ったんじゃないかと思える荒くれた連中も来るけど、ほとんどは歌の世界に浸りたいと考えている人達だ。もちろん、どちらのファンも俺達は大歓迎さ。アメリカについて言えば、静かで行儀のいい人達もいれば、クレイジーで、ケンカを始めるような物騒なファンもいる。本当にいろいろなお客さんが来るんだよ」

●つまり、MBDのファン層は幅広いと?

「そう、とてもね。20代から40代まで、いろいろ人達がいるよ。これまで俺達は本当に、いろいろユニークな人達に会ってきたよ」

●今年の4月にリリースした最新5thアルバム『GOOD MORNING, MAGPIE』について聞かせてください。アルバムを作るにあたっては、どんな作品にしたいと考えていたんですか?

「特にこれと言ったアイディアはなかったな。曲を書くため、俺は2週間、ひとりでテネシーの森に籠ったんだ。テントと釣竿と食料とノートパソコンを持ってね。10曲ぐらい書いたところで、それをバンドと仕上げるために家に戻ってきた。それがアルバム作りのスタートだった。それからずいぶん経ってから、1曲1曲のテーマが俺の旅の経験と密接に結びついていることに気づいたんだ。孤独、孤立、野生の生活、天気……そう言えば、俺が森にいる間、ずっと雨が降っていた。今振り返ってみると、けっこうきつい旅だったね(苦笑)。不思議なことに、ずいぶん後になるまで、その体験が曲に反映されていることに気づかなかったんだよ」

●タイトルのマグパイ(カササギ)は悪魔の使者だそうですね。

「カササギは興味深い鳥だよ。気性が荒くて、人を襲うこともあるらしい。奴らは盗っ人なのさ。宝石や光る小さな物を巣に運ぶんだよ。『GOOD MORNING, MAGPIE』って、いいタイトルだと思わないかい? 明るい響きと同時に暗さや鋭さも感じられる。『GOOD MORNING, MAGPIE』ってアルバムには、そういう相反する2つの面があるんだよ」

●現在、MBDはヴェイグラント・レコードに所属しています。ヴェイグラントと契約したとき、彼らはバンドに何を期待していたと思いますか?

「さあ、どうだろう? 彼らは俺達を歓迎してくれたけどね。俺達の音楽のファンだと言い、そのまま続けていってほしいと創作上の自由も与えてくれた。そのうえで俺達が作る作品をサポートしてくれるんだ。とても協力的なレーベルだよ」

●今後の予定は?

「そうだな。いつの日か日本に行けたらいいね。今年の秋にオーストラリアをツアーしようと考えているんだ。オーストラリアに行けるんだったら、きっと日本でもツアーできるんじゃないかな。俺達はずっと日本に行きたいと考えているんだよ」

(インタビュー◎山口智男)


『GOOD MORNING, MAGPIE』
(VAGRANT)

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