TWO COW GARAGE


このバンド名のせいで、いまだにジョークでやっているカントリー・バンドだと
勘違いされることがある。残念なことにね



フォーク・パンク・ブームにかこつけてクールだとか新しいとか言うつもりは、これっぽっちもない。むしろ、その反対だとさえ思っている。

ただ、自分でも呆れるぐらい、こういうバンドが好きなのだ。

オハイオ州コロンバスの4人組、トゥー・カウ・ガレージ(以下TCG)。

彼らもまた、僕が愛して止まないルセロ、ガスライト・アンセム同様、トラディショナルなアメリカン・ロックのソングライティングとパンク・ロックの向こうっ気を併せ持った、しゃがれ声のシンガーを擁するバンドである。

結成は01年。これまでに5枚のアルバムをリリースしている。

フロントマンのマイカ・シュナベル(Vo, G)は10年3月、ソロ名義のアルバム『When The Stage Lights Go Dim』もリリースした。弾き語りに若干のストリングスを加えただけのシンプルなサウンド・プロダクションが際立たせるメランコリックな歌心が光る素晴らしい1枚だった。

その後、TCGがリリースした目下の最新アルバム『Sweet Saint Me』もそれに負けず劣らず素晴らしい作品だ。パンキッシュという言葉がふさわしい、よけいなものを削ぎ落とした性急なサウンドが、マイカとシェーン・スウィーニー(Vo, B)ふたりのソングライティングを際立たせる一方で、バンドが持っている剥き出しの感情や血気を改めてアピールしている。

結成10年。彼らのモチベーションやインスピレーションはまだまだ衰えてはいない。いや、むしろこれからだ。

ピアノ・バラードの「Closer To You」でカントリー・ディック・モンタナを思わせる渋い歌声を披露しているシェーンがインタビューに答えてくれた。



●まず、TCG結成の経緯について教えてもらえますか?

「TCGは01年9月に、ここオハイオ州コロンバスのとある地下室でスタートしたんだ」

●その時、どういうバンドをやろうと考えていたんですか?

「さあ、どうだろう? そんなことは一度も話し合ったことはないからね。まず曲が何曲かあったんだよ。それを自分達の物にしようと、1日7〜8時間、毎日演奏したんだ。ある意味、必死だったね」

●でも、バンドを始めたとき、誰かの影響を受けてはいたんですよね?

「そうだな。いいことを教えてあげるよ。俺がTCGを、いいバンドだと思う理由の一つは、メンバーそれぞれに受けてきた影響がとても幅広いってことなんだ。たとえば、ドラムのコディー(・スミス)はディセンデンツからディーヴォまで、さまざまなパンク・バンドを聴いてきたし、キーボードのアンディー(・シェル)はブルース・ベースのロックが好きなんだ。全員がそういう幅広い影響を持ち寄って、TCGのサウンドになるんだよ。まぁ、バンドを始めた頃は、ビッグ・ブラック・フォーティーとか、グリーンホーンズとか、リリーバンディッツとか、多くの地元のバンドから影響を受けたけどね」

●トゥー・カウ・ガレージというバンド名はどこからつけたんですか?

「ジェフ・ファーネンジェルって俺達の友達がある日、勝手に俺達のことをトゥー・カウ・ガレージって呼びはじめたんだ。それがいつの間にか定着しちゃったんだよ。お陰で、いまだにジョークでやっているカントリー・バンドだと勘違いされることがある。残念なことにね。正直、このバンド名は俺達の頭痛のタネでもあるんだよ」

●何年か前、シンガー・ソングライターのティム・イーストンのバック・バンドを務めていましたよね。ティムとはどんなふうに知り合ったんですか?

「以前、ティムはコロンバスに住んでいたし、ビッグ・ブラック・フォーティーやリリーバンディッツなんかと一緒にライヴをやっていたから、マイカ(・シュナベル/ヴォーカル&ギター)も俺もティムのことは前から知っていたんだよ。そもそもマイカと俺が知り合ったきっかけっていうのも、俺がティムの曲を演奏していたからだしね。ティムのことは、ずっとすごいソングライターだと思っていたよ。それに多才だしね。ギタリストとしてもすごいだろ? ギタリストとして、ティムは過小評価されていると思うね」

●TCGが昨年、リリースした『Sweet Saint Me』は、作りこんだ印象の前作『Speaking In Cursive』よりも荒削りで生々しい音作りのアルバムでしたね。

「『Speaking In Cursive』は、それはそれは素晴らしいスタジオで作ったんだけど、その頃、バンドはとても困難な状況下にあったんだ。実際、前作をプロダクション重視のウェルメイドなレコードと表現した人達もいたよ。ただし、アルバムを作っているとき、バンドが置かれていた状況や俺達の気持ちは、それとは正反対だった。正直、あのアルバムには、いい思い出はないね。でも、『Sweet Saint Me』は、それとは正反対の状況から生まれたんだ。少なくとも俺はそう思うよ。より生々しい作品にもかかわらず、気持ちの部分では、メンバー全員が『Sweet Saint Me』には安らぎを感じているんだ。自分でもそこがおもしろいと思う。あのアルバムはほとんど納屋と言うか家畜小屋を改造したスタジオでレコーディングしたんだ。だから、よりエッジーなサウンドになったんだろうね」

●『Sweet Saint Me』の歌詞は、主にどんなことがテーマなんですか?

「たぶん、メンバーそれぞれに考えていることは違うと思うんだけど、俺自身は宗教やソングライティングにおける英雄崇拝の終わりだと考えているよ。それとか、トンネルの出口に見える明かりとか、自分の存在意義を知ることとかかな。もちろん、自分達がやっていることを理解することは大切だとは思うけど、歌詞を書いている時は、そんなことは何一つ意識していないと思う。俺達はただ、俺達が感じたことを書いているだけだからね」

●『Sweet Saint Me』の「Sally I've Been Shot」や「My Great Gatsby」という曲からは、多くの人が青春のバイブルと考えている『ライ麦畑でつかまえて』や『グレート・ギャッツビー』からの影響が窺えますね。

「マイカと俺は、たぶん意見が違うと思うんだけど、正直、俺は『ライ麦畑でつかまえて』なんて大嫌いだね。それを読んだとき、なぜ、そんなに多くの人達がそれを好きなのかが俺には理解できなかったよ。まぁ、それはさておき、「Sally I've Been Shot」について、俺が言えることは、『ライ麦畑でつかまえて』のメッセージをより現実的なものとして訴えかけているってことだけだな。主人公の少年はあらゆる物を持っているにもかかわらず、不幸だと感じている。つまり、人は物だけじゃ満たされないってことさ。「My Great Gatsby」は、『グレート・ギャッツビー』がいかに素晴らしいかについて歌っている。結局、フィッツジェラルドは『グレート・ギャッツビー』を超える作品を残せなかった。『グレート・ギャッツビー』は、フィッツジェラルドの作品であると同時に彼の情熱が形になったものでもあるんだ。もっとも、そんなことを言ったところで、『グレート・ギャッツビー』を知らない人達にとっては、「My Great Gatsby」は存在しないも同然だけどね」

●本を読むのは好きですか?

「本を読まない作家は、泳げない水泳選手と同じだって言うだろ? 本を詠むことは、歌を作るうえでも欠かせないよ」

●好きな作家は?

「ジョン・スタインベックとカート・ヴォネガットだな。その2人の作家は俺に語りかけてくるんだよ。もっとも、これは俺の意見。他の3人に聞いたら、また別の答えが返ってくるはずだよ」

●「Lucy And The Butcher Knife」という曲は、ドナルド・レオ・ポラックの『Knockemstiff』という短編小説集が基になっているそうですね。ノッケムスティッフはオハイオに実在するゴーストタウンだと聞きました。それは本当ですか?

「正直、俺達全員、ノッケムスティッフなんて町があることさえ、その本が出版されるまで知らなかったんだよ! 人口密度が高いオハイオにゴーストタウンが存在するなんて興味深いと思わないかい?(笑) ノッケムスティッフについて語れることは何一つないけど、『Knockemstiff』の作者はコロンバスに住んでて、俺達がしょっちゅう通っているバーに時々、現われるって噂だよ(笑)」

●ツアーを終えたばかりだそうですね。TCGのライヴにはどんなお客さんが来るんですか?

「いろいろな人達が来るよ。しかも、みんな俺達の曲に何かしら一家言を持っているんだ(笑)。ほら、俺達の曲は飾ったところがないし、どれも正直だろ。だから、いろいろな人達がそこに何かしら楽しみを見つけられるんじゃないかな」

●みなさんにとってツアーの醍醐味は?

「ツアーはバンドを続けるための活力源さ。あらゆる瞬間が好きなんだよ。もちろん、退屈することもあるし、自分達の出番まで長い時間を待たなきゃいけないこともある。家族が恋しくなることだってあるよ。だけど、自分の音楽を多くの人に届けることが、俺は自分の天職だと思っている。そうそう、セントロ・マティックって素晴らしいバンドのメンバー、ウィル・ジョンソンがこの間、This Is American Musicにツアー中の過ごし方について、とても気の利いた言葉を寄せていた。彼はこう言っていたんだよ。『時間があったら、顔を上げてごらん』って。含蓄があるよね」

●最後の質問です。今後、どんなふうに活動を続けていきたいですか?

「常に作るべき新しいレコードがあるし、常に俺達がまだ訪れていない場所がある。もちろん、まだ出会っていない人達もたくさんいる。レコードを作って、出かけていって、そこにいる人達に俺達の音楽を届けるんだ。それしかやることはない。俺達全員、ロックンロールを信じているし、できることならみんなにも信じてほしいと思っているんだ」

(インタビュー◎山口智男)


『Sweet Saint Me』
(Suburban Home)


『When The Stage Lights Go Dim』
Micah Schnabel
(Suburban Home)


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