NOBODY'S DARLINGS (05年/LIBERTY&LAMENT/BULLION) このところ、ルセロに対する支持がメンフィスのローカル・シーンの垣根を飛び越えて、ものすごい勢いで広まっているという噂は耳にしていたものの、先頃インタビューに答えてくれたLAのステューボスのメンバーの口からもその名が飛び出したことで、僕は現在のルセロの底知れない勢いをしみじみ実感させられた気がした。 実は、僕がルセロのことを知ったのは、遅ればせながら前作からなのだけれど、そのときの第一印象はズバリ、「なんかグー・グー・ドールズみたいだなぁ」だった(スミマセン)。でも、ますます色濃くなったリプレイスメンツからの影響をかんがみれば、そんな僕の第一印象もあながち的外れじゃなかったのかもしれない……なんて言い訳したくもなるところ(グー・グー・ドールズだって立派なリプレイスメンツ・チルドレンなのです)。 そのリプレイスメンツに倣ってか、仲良しノース・ミシシッピ・オールスターズのディッキンソン兄弟のツテで御大ジム・ディッキンソンをプロデューサーに招いてローカル・カラーを前面に打ち出した最新作。フルテンのマーシャル・アンプ直結を思わせるガラガラ唸るラフなギター・サウンドで繰り出す 「WATCH IT BURN」「ANJALEE」「CALIFORNIA」「LAST NIGHT IN TOWN」のようなガレージ・パンク風R&Rは、よい意味で吹っ切れたバンドの現在の姿をストレートに表しているようで頼もしい限り。 前作を「リプレイスメンツが創り得なかったカントリー・アルバム」と絶賛したのはローリング・ストーン誌だが、“カントリー&ウェスターバーグ”とさえ評されたポール・ウェスターバーグ同様、ベン・ニコルズが内に秘めたカントリー魂もまた極めて内面的であるがゆえ、僕はしばらくこの音のどこがカントリーなのか理解できなかった。しかし、あえて自身のローカル性に執着し、他のアーティストにしてみれば何の取り留めもない日常を誰もが実感できる言葉で綴る彼の歌は、表層的にカントリー・スタイルをなぞった意図的な音よりは、よほど王道のカントリー・ソングということになるんだろう。そして何より、この彼の天性の歌声こそまさにパーフェクト・カントリー・ヴォイスと呼ぶに相応しいのかもしれない。 アンクル・テュペロの流れを汲む初期のオルタナ・カントリー・サウンドから、しだいにポスト・ハード・コア/エモの流れとも捉えることのできるモダンなサウンドにシフトしてきた感はあるけれど、そういうこと以前に、そもそもここまで純度の高いロックンロールを鳴らしているバンドを、いま僕は彼ら以外に知らない。 まちがいなく、ルセロはいまアメリカで最もセンセーショナルなバンドだ。 (高野匡哉) |
LUCERO (01年/MADJACK) |
当初はカントリー・ロック・バンドを目指していたという話が半分頷ける、たそがれた味わいのデビュー・アルバム。
軽快なカントリー・ロックの「LITTLE SILVER HEART」、カウパンクの「BANKS OF THE ARKANSAS」、ピアノが転がるホンキー・トンクの「ALL SEWN UP」、カントリー・ワルツの「BETTER THAN THIS」などは、確かにデビュー当時、よく言われた“オルタナ・カントリー・バンド”のレパートリーにふさわしい。しかし、収録曲の大半を占めるスロー・ナンバーは、すでに彼らならではの世界観をアピールしている。 その要はやはり、メランコリーいっぱいのメロディーをふり絞るように歌いあげるベンのしゃがれ声と激しい感情表現、そして艶っぽいギター・フレーズだろう。 それらが孕む“重さ”とは裏腹にバンドの演奏を何の手も加えず、そのまま捉えた“軽い”サウンドが、いまとなっては何とも歯痒い。 (山口智男) |
TENNESSEE (02年/MADJACK) |
前作のカントリー色を払拭して、彼らはこの2ndアルバムで、みごとロック・バンドに転じた。
あいかわらずメランコリックなスロー・ナンバーが中心ではあるものの、軽快な「AIN'T SO LONELY」、フォーク・ブルース風の「OLD SAD SONG」、ディストーションでひずませた2本のギターが暴れまわるロック・ナンバーの「CHAIN LINK FENCE」、ベンが弾き語るピアノ・ワルツの「FISTFUL OF TEARS」、歌とギターをたっぷりと泣かせるバラードの「HERE AT THE STARLIGHT」など、多彩な楽曲を披露して、演奏面におけるバンドの成長とともに表現力がぐっと増したことを印象づける。 そんなバンドを、前作にひき続きプロデュースを担当したコディ・ディッキンソンが奥行きを増した音作りでバックアップ。 やや地味な印象は否めないものの、次のアルバムへの布石も聞かせつつ、バンドの基本形を完成させたという意味では聞き逃せない作品だ。 (山口智男) |
THAT MUCH FURTHER WEST (03年/TYGER STYLE) |
前作発表後、苛酷なツアーに疲れたブライアンが脱退(その後、復帰)。新たにアーカンソーのギタリスト、トッド・ギルを迎え、セルフ・プロデュースで挑んだこの3作目は、前作でアプローチした淡い風景を描き出す演奏を、プログラミングも使って、インディー・ロック/エモと表現できるサウンドに昇華させることに成功した意欲作。
このアルバムを発表した頃から、彼らの評価はぐんぐんと上がりはじめた。 しかし、彼らは決して“南部魂”を失ってしまったりはしなかった。「サザン・ロックをやりたかった」と語る最新4thの布石とも言えるロックンロールの「TONIGHT AIN'T GONNA BE GOOD」と「TEARS DON'T MATTER MUCH」は、まさに彼らの真骨頂。特に大都会の夜に憧れるサザン・ボーイの夢と希望を歌った後者は彼らの原点と言ってもいい。 また、恋人を残してツアーに出かけるバンドマンの心情を歌った「COMING HOME」からは彼らの決意が聞きとれる。 (山口智男) |
THE ATTIC TAPES (00年/SOUL IS CHEAP) |
デビュー・アルバム制作以前にブライアンの自宅の屋根裏で8トラックのカセット・レコーダーを使ってレコーディングしたマテリアルを集めた初期音源集。この頃のルセロには現在の4人に加え、レイコという日系人のヴァイオリニストがいた。これを聴いていると、この頃の彼らはけっこう真剣に、たとえばウィスキータウンのようなカントリー・バンドをやろうと考えていたようにも思える。
ただ、メランコリックなスロー・ナンバーは、後のルセロに通じるところはあるものの、その大半はいわゆるデモの域を出るものではない(多分発表するつもりはなかったんだろう)。加えて、レイコが奏でる美しいヴァイオリンの音色も、ややミスマッチ気味(レイコ脱退後は男性ヴァイオリニストを加えて、活動していたようけれど)。従って、あくまでも熱心なファン向けの1枚と言っておこう。1曲目の「INTO YOUR EYES」は『TENNESSEE』で再演している。 (山口智男) |
BRIGHT STARS ON LONESOME NIGHTS DVD (05年/NEW SCRATCH) |
01年頃のバンドの姿をとらえたドキュメンタリー。
メンバーのインタビューを中心にライヴや『TENNESSEE』のレコーディング・セッションも収められている。 今年の暮れには新しいDVD がリリースされる予定だ。 |
DISCODRAPHY / RED FORTY (05年/HARLAN) |
ルセロ以前、ベンがアーカンソー州リトル・ロックでやっていた3人組パンク・バンド、レッド40のアンソロジー。彼らが94年〜96年にレコーディングした17曲が収録されている。長い間、入手困難だったが、ルセロの注目度アップを機に、今年ジャケを変えてリイシューされた。
ベンが影響を認めるジョウブレイカーを思わせる、いわゆるメロディック・ハードコア・サウンドは、それ以上でもそれ以下でもない。しかし、予想以上に曲の出来はいい。エルヴィス・コステロの「VERONICA」のカヴァーが全然違和感なく収まっていると言えば、それは分かってもらえるはず。そのクオリティーは現在のパンク・シーンでも十二分に通用する。 あるいは、元々カントリー・バンドとしてスタートしたルセロがタフなロックンロール・バンドに変化してきた理由の一つを、ここに聞きとることも可能だ。 (山口智男) |
NO ONE FUCKS WITH VEGAS THUNDER / VEGAS THUNDER (00年/SYMPATHY FOR THE RECORD INDUSTRY) |
レッド40とルセロの間にベンがギタリストとして参加していた4人組ヴェガス・サンダー、唯一のアルバム。スチュワート・サイクス(ホワイト・ストライプス他)とジャック・オブリヴィアンがバンドとともにプロデュースを担当。トラッシュ風味とロックンロール風味が入り混じるパンク・ロックにルセロとの共通点を見出すことは難しい。
(山口智男) |