LAST HURRAH

        祝・初来日!! ライアン・アダムス特集

        ★ディスコグラフィー




Heartbreaker
(00年/Bloodshot)

Heartbreaker
道ばたで「今でも愛しているかい?」なんて歌うミュージシャンを見かけたら、鼻で笑って通り過ぎるだろう。そんなフレーズは、“安易”のレベルを通り越して、“うんざり”の領域までも軽く突き抜けてしまう。冒頭は4曲目に収められた「エイミー」の一節だが、この曲は、もしかするとそういった危険性を孕んでいたのかもしれない。だとすれば、なぜ、僕はこの曲を何度も繰り返し聴いてきたのだろう。「臭いなぁ」と文句を垂れながら、いつのまにやら感情移入してしまったのか、あるいは、こんな歌を歌わずにはいられない人物の内面を、できることなら透視してみたいと思ったのか。いずれにしても、普通であればはねのけてしまうようなフレーズを、すっととけ込ませ、流れるようなメロディーにのせて歌われるこの曲はすばらしい。この歌をはじめ、失恋をテーマにまとめられたこの作品に、聴き手が深く引き込まれてしまうとしたら、それは、その息づかいを伝える声帯も、ギターをつま弾く指先も、あふれる旋律も、本物のアーティストのものだからだ。ライアンのキャリアの中で、最も簡素なこの作品が、絵画で言えばデッサンのように、彼の音楽性の骨格を克明に伝えている。
(山本塁)




Gold
(01年/Lost Highway)

Gold
『Strangers Almanac』であれだけ天才! 天才! って煽っておきながら、『ハートブレイカー』は放ったらかしのメジャーって本当にいいかげんだと思うけど、エルトン・ジョン絶賛でやっと重い腰が上がったのか(?)、ユニバーサル傘下のロスト・ハイウェイからリリースされたソロ第2弾。9.11直後の9.25リリースでこのジャケ写、おまけに1曲目から大好きニューヨーク♪だなんて、彼の不遇を憂いた神様のいたずらとしか思えないんだけど(もちろん偶然、狙ってたらベタ過ぎ&不謹慎)、そんな千載一遇のチャンスにこれまたドンピシャの超メジャー志向作。彼の全キャリアの中でも断トツにキャッチーなオープニングの2曲に、思わず眉をひそめてしまうファンもいるかもしれないけれど、僕はこういう曲をもっとたくさんやればいいのになって思う。次から次に飛び出す引出しひとつひとつに違うアルバム・タイトルをつけて収拾をつけているように見える彼にしては、全編よい意味で雑然としたお気楽ムードに包まれていて、ソロ作のなかではいちばんカラフルな印象。スタジオ内に禁酒令を敷いたプロデューサーのイーサン・ジョーンズと無邪気にストーンズごっこしている「ティナ・トレドズ・ストリート・ウォーキン・ブルース」だって、酒飲んでないにしちゃカッコよすぎじゃない?
(高野匡哉)




Demolition
(02年/Lost Highway)

Demolition
「アルバムに入らなかった曲を集めて作ったアルバム。だからタイトルが『デモリッション』、ハッ!!(笑)」などとライアンの声が聞こえてきそうなアルバム。作った時期もバラバラならメンバーもバラバラだけに、これを“アルバム”と呼ぶことはジョークな感じを覚えてしまう。とはいってもいい曲もある。なんといってもジョン・ポール・キース在籍時のピンクハーツ・セッションの緊張感が素晴らしい。ライアンの鬼気迫るシャウトは身を引いてしまうくらいの怖さを伝えているし、このセッション時のスタジオの空気がよく伝えられている。逆にバラードの“あまった曲”という感じが目立つ理由でもある。しかしこの人の声はロックよりもバラードを歌ったときに生えるので(失恋多いし)、この声があると“ムムッ…、悪くないね”という曲に聴こえてくるから不思議だ。あくまで他のライアン作品を聴いた上で聴くべきなのだが、ある意味ベスト・アルバム的に捉えるのは面白いかもしれない。その時期の感情はよく出ているし、未発表の曲でこのクオリティーの高さにはやはり恐れ入る。そういうことをふまえ、アメリカン・ジョークを笑いながら聴くのがいいだろう。
(山本尚)




Rock N Roll
(03年/Lost Highway)

Rock N Roll
3回目を聴く気になるかどうか。1枚のレコードと付き合う場合、実はこれが重要だ。最初に聴いてぱっとしなくても、もう一度くらいなら聴いてみる気になる。それでだめならおそらくもう聴くことはない。(3年後、思い出したように聴いてみて、ノックアウトされることもあるが…)何かに促されるかのように、3回目を聴く気になったなら、その作品の罠に、はからずともかかってしまったと言ってよい。そんな出会いなら、そのレコードとは長い付き合いになる。ライアンの作品は、どれもそんな感じだ。最初にぱっとしないのは、聴き手の僕が、一度ではその深淵に到達できないから、なのだ。この作品との付き合いもそういったわけで続いている。歪んだギターは自在にフレーズを奏で、そのどれもが口ずさんでしまうほどだし、曲の並びは、意図的かどうかは別にして、ライブにも似た高揚感を与えてくれる。歌声は、そのときの天気や僕の気分次第で、同じ曲でもまったく逆の表情を見せる。荒々しいこのアルバムを“味わい深い作品”と形容することに異論がある人は多いだろう。だが、それ以外に繰り返し聴くことの理由を僕は説明できない。
3回聴けばわかってもらえるだろうか。
(山本塁)




Love Is Hell
(04年/Lost Highway)

Love Is Hell
レコード会社から「ダメダメ、こんな暗いの出せないよ」と却下されたものの、次に作った『ロックンロール』の発売後に2枚のEP(pt1は8曲、pt2は7曲入り)としてリリースされた本作。確かに私も最初に聴いた時は「この陰鬱さじゃ、却下も仕方なかったか」と思ったけれど、聴き返すごとに深みにはまっていき、結局『ロックンロール』よりはまっている。生きるとか死ぬとか考える事は、カッコよくもないし悪くもない、当たり前のことだと思えてくる。ひりひりとした痛みを伴っても、気分が滅入っても、そこにある音楽は美しくて、すがりつけば浄化され救われていくような気がするから不思議だ。ライヴになると、さらにむせび泣くよう歌われる「ワンダーウォール」はノエル・ギャラガーに曲の良さを再認識させ、05年グラミー賞にもノミネートされた名カヴァーだが、個人的には「I See Monsters」がベスト! アナログ10インチ2枚組も同発され、欧州盤EPにはそれぞれ2曲ずつのボーナス曲が追加、後に2枚の米盤EPをコンパイルして「Anybody Wanna Take Me Home」の未発表ヴァージョンを加えた16曲入り米盤CDも発売された。日本盤化、熱望!!
(赤尾美香)




Cold Roses
(05年/Lost Highway)

Cold Roses
“rose”(バラ)には人生の安楽、幸福という意味がある。また青いバラには不可能の象徴という意味もある。ライアン・アダムスは直球勝負の過去の作品より明らかにこの最新作『Cold Roses』においてアーティスティックな、文学的な面を示した。ペダル・スティールやアコースティック・ギターのどこか冷たい音と、ライアンの奥底に感じる温かみのある声がこのタイトルと見事にマッチし、いつになく“訴えかける”ものを感じてしまう。ハートブレイカー&ロックンロール野郎のはずのライアンが一つも二つも深い人間になったなと感じさせられた。カーディナルズの演奏はいいし、このアルバムのバンド感、どこかウィスキータウン時代を思い出させてくれることが嬉しい。バラエティーにも富んでいるし、曲数のわりにぱっと作った感が薄くツアーを共にしたバンドとの一体感も伝わる。この2枚組を聴いていると今までのライアンのどのソロアルバムよりもしっくりくる。相変わらず私的な内容は多いが、30代になり妙に知的さを感じさせるようになった。だからこの青いジャケットが訴えるもの、“コールド・ローゼズ”の意味を考えながら聴くと更に楽しめるだろう。
(山本尚)




おまけ★ LIVE IN JAMAICA
(デジタルサイト)

Live in Jamaica
バンド・メンバーとともにジャマイカを訪れたライアンが現地の文化に触れつつ、ライヴを披露するDVD 。元々はアメリカのTVシリーズ「MUSIC IN HIGH PLACE」の1エピソードだった。ショッピングを楽しんだり、日焼けに苦しんだりするシーンは、ライアンの素顔が垣間見えるようで興味深い。ファンは必見。



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