Vol. 3

カウボーイ・ブーツは持ってきたかい!? イーハー!
世界最大規模の音楽見本市の模様をレポート


文と写真◎山口智男

毎年3月半ば、テキサス州オースチンで開催されている全米、いや、世界最大規模の音楽見本市サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)。20周年を迎えた今年、その出演者はついに1400組を超えてしまった。その規模は最早、世界最大と言っても過言ではないだろう。
音楽三昧の4日間、どれだけのライヴを見ることができたのか?
その模様をSXSW開催中のオースチンでの過ごした方と合わせレポート。



3月16日、木曜日。
■午後8時〜 Mark Pickerel @ Bourbon Rocks (508 E.6th)


夜の部は、ブラッドショット・レコードのショウケースでスタート。
その舞台となるバーボン・ロックスは、去年までザ・ヴァイブといっていたバーが新装オープンした店。チアガール風のコスチュームのウェイトレスと天井でくるくると回っているド派手な照明がなんだかブラッドショットには不釣り合いだ。
ショウケースのトップバッター、マーク・ピッケレルはスクリーミング・トゥリーズの元ドラマー。現在は、かつてのバンドメイト、マーク・ラネガンやニーコ・ケイスと共演するかたわら、自らがフロントに立ち、シンガー・ソングライターとして活躍している。
 この日は、マーク・ピッケレル&ヒズ・プレイング・ハンズ名義でリリースした最新アルバム『Snake In Radio』からの曲を披露。
いかにもオルタナ通過後のカントリー・ロックの趣。
時間が浅いせいか、まばらな客と淡々とした演奏がうら寂しい。

ピッケレルのライヴを早めに切り上げ、ニュー・ウェスト・レコードのショウケースへ。


■午後9時〜 Tim Easton @ La Zona Rosa (612 W.4th)

最前列で開演を待っていると、ステージに出てきたティムが僕らに気づき、「やあ!」「やあ!」と挨拶を交わす。
考えてみれば、ティムのライヴは99年の初参加以来、SXSWでは毎年欠かさず見ている。
なぜ、毎年欠かさず見ることができたかと言うと、それは僕らが熱心な追っかけだからというわけではなく、インストア・ライヴや昼間のフリー・ライヴなど、SXSW開催中のオースチンでティムがそれだけ多くのステージに立つからだ。
そして、その都度、さまざまな編成で、ティムはいろいろなライヴを楽しませてくれる。
今回はリズム隊を従えただけのシンプルな編成。
しかし、新曲中心のセットかつ、その新曲がフォーク色濃いせいか、いまいち演奏が転がっていかない。
1曲ごとにティムがリズム隊の2人に曲を教え、1曲終わるごとに「Good job!」と声をかけている様子から察するに、リズム隊の2人はSXSW直前に雇ったミュージシャンらしい。ひょっとすると、ぶっつけ本番?
それでは演奏にグルーヴが生まれるはずもない。これだったら弾き語りのほうがよっぽど楽しめただろう。
最後は弾き語りで締めくくったものの、終盤、披露した女性フィドル奏者とのデュエットも含め、終始、手探り状態。決してつまらなかったわけではないんだけれど、今年はそういう印象だった。




ブラッドショット・レコードのショウケースで10時から、噂のデッドストリング・ブラザーズを見ようと思い、6thストリートに戻ったものの、エターナルというクラブの前を通りかかると、すでに行列ができている。
「あれ。11時から、ここでダーティ・プリティ・シングスを見るつもりなんだけど」
この様子だと、デッドストリング・ブラザーズを見たあと、11時直前に戻ってきても入れないかもしれない。
そこで、デッドストリング・ブラザーズのライヴはあきらめ、行列に並んで、早めにクラブに入ることにしたものの、列は全然進まない。
しかも、エターナルの隣の、SXSWには参加していないクラブではヘヴィ・メタル・バンドが熱演の真っ最中。窓を開け放したままだからうるさくてしかたない。
SXSW開催中のオースチンはとにかく四六時中、どこに行っても何かしらの音が鳴っている。それが楽しいときもあれば、煩わしいときもある。

結局、クラブに入ることができたのは1時間後。
10時からここで演奏していたボーイ・キル・ボーイの演奏はすでに終わり、ちょうどセット・チェンジしているところだった。
ショウケースのスケジュールが載っているポケット・ガイドで11時からの出演バンドを確かめると、スペシャル・ゲストと書いてある。
誰だ、それ?

ビールを買いにいったとき、偶然、日本の某プロモーターのスタッフを見つけたので、尋ねてみたところ、「フレーミング・リップス」と答えが返ってきた。
へぇ。
11時をずいぶん回ったころ、フレーミング・リップスの演奏がスタート。
1曲目はなんと、クイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」。
なんと、観客全員が一緒に歌っている!!
すごい盛り上がり。
しかし、1階も2階もパンパンで、バンドの姿はこれっぽっちも見えない。
見えるのは、バンドが飛ばした特大バルーンだけ。
「ボヘミアン・ラプソディ」の盛り上がりを持続したまま、何だか、よくわからないうちに12時過ぎ、フレーミング・リップスの演奏は終了。






しかし、客が入れ替わる様子はない。
SXSWにおけるUKバンドの注目度は、アメリカではUKバンドを見ることができる機会が少ないせいか、かなり高いようだ。それもダーティ・プリティ・シングスのような話題のバンドになればなおさらだろう。
ダーティ・プリティ・シングスはリバティーンズのカール・バラーが新たに結成した4人組。
デビュー・アルバムがリリース間近なので、どんなものかちょっと見ておこうと思いきや、セット・チェンジに手間取り、彼らの演奏が始まったのは、12時40分。
結局、午前1時からハンク3を見るため、彼らの演奏はたった1曲しか見ることができなかった。
うーん、この1曲の為に2時間も費やしたのかと思うと、アホらしくなる。
その1曲に限って言えば、ダーティ・プリティ・シングスがやっていることはリバティーンズと何ら変わらない。って言うか、メンバーの4分の3が元リバティーンズなんだから、それも当然と言えば、当然か。
でも、カールは本当はこれをピート・ドハーティとやりたかったんだろうなぁ……。
いやいや、そんなふうに感慨にふけっている時間はない。

アントンズにダッシュだ。
3月16日、木曜日。
■午前1時〜 Hank Williams III @ Antone's(213 W.5th)


4年ぶりの最新アルバム『Straight To Hell』の、期待以上の出来になんとなく予想はしていたものの、ヘルビリーのプリンス、ハンク3のライヴはやはり凄まじいものだった。
ウッド・ベースのジョー・バック(リジェンダリー・シャック・シェイカーズの元ギタリスト)他、フィドル奏者、ペダル・スティール奏者、ドラマーを従え、ハンク3はアコギをかき鳴らしながら、ヘルビリー・ナンバーを次々にたたみかける。
アコースティック・サウンドながら、演奏そのものはパンクに近い。
地獄までつきあうぜ!! とメンバー全員が一丸となった演奏が大きなうねりを作りだす。そのインパクトは尋常ではない。
やはり彼はホンモノだ。
途中、ハンク3が兄貴と慕うウェイン・“トレイン”・ハンコックが客演。熱いデュエットを披露した。

そして、45分たったころ、ハンク3がおもむろに三つ編みをほどき、テンガロン・ハットをキャップに、そしてアコギをエレキに持ち替え、いきなりメタル・セットがスタート!
いつの間にか、ジョー・バックもウッド・ベースをエレキに持ち替えている。
ハンク3がヘルビリーとメタルの2本立てライヴをやっていることは知っていたものの、まさか演奏時間が限られているSXSWで、それを見られるとは思いもしなかった。
ガガガガとエレキが唸り、ハンク3が「ウォー!!」と咆哮する。
ヘルビリー・セットではシンプルにリズム・キープに徹していたドラマーがドカドカと雷鳴の如き、荒々しいリズムを叩きだす。
メタル・セットになったとたん、熱狂する一部のファンを残して、客がガンガン帰りはじめた。
しかし、ハンク3はそんなことはお構いなしに、スラッシュ・メタル・ナンバーを矢継ぎ早にくり出していく。
ガガガガ。ウォー!! 
ガガガガ。ウォー!!
ほとんど、いやがらせにしか思えない(笑)。
因みに頭の数曲ではフィドル奏者とペダル・スティール奏者も演奏に参加。これでこの2人の地獄行きは決定だ。







満面の笑みを浮かべ、ステージに見入っている早川哲也氏を発見。僕がさっき物販で買ったTシャツと同じやつを、すでに着ているではないか。
買ってすぐに着替えたのか!?(笑)

メタル・セットはオマケと思いきや、ちっとも終わる様子はない。
結局、ライヴが終わったのは、午前2時45分。
ヘルビリー・セット45分、メタル・セット45分、計90分の熱演。
それにしても、これまでは2時になると、演奏の途中でも電源が落とされていたんだけれど、今年からルールが変わったのか、それともアントンズだけルールがゆるいのか?
ともあれ、1日のしめくくりにはふさわしいライヴだった。
熱狂の余韻を味わいながらの帰り道は、なかなかに気分のいいものだった。
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